ドラマの回数を重ねるごとに、毎回安定したのんびりやキャラで「癒される」と人気急上昇中の次郎兵衛。
【前編】の記事↓
大河ドラマ『べらぼう』つたや三兄弟の癒しキャラ!? じわじわ人気度アップ「次郎兵衛にいさん」の魅力【前編】
【前編】に続き、次郎兵衛の魅力を探ってみました。

新吉原の妓楼・丁子屋の風景 鳥居清長
■ぼんやりしているようでいろいろ鋭い次郎兵衛にいさん
次郎兵衛にいさんは、吉原を代表する引手茶屋・駿河屋(高橋克実)の実子で、養子の蔦重の義理の兄です。吉原に向かう手前の五十間道で小さな茶屋の経営を任されてはいるものの、実際は蔦重が切り盛り。さらに蔦重はその軒先で貸本屋も営んでいます。次郎兵衛はなんとなく店番したりのんびりしたり……働き者という感じはありません。
【前編】でもご紹介したように、いつものんびりぼ~っとしているのに、蔦屋の売上金が入った巾着を持ち上げ、金が減っていることに気が付く一面も。
けれども、蔦重に「義兄さんが何か買ったんじゃあねえですか」と言われ「う~ん俺なのかなあ」と、考えている姿が「かわいい」「アバウトだけれど癒される」とSNSで話題になりました。

江戸時代の町人。着物1枚の蔦重と、いつも羽織を着ているにいさんのイメージ(ac-illust)
金が減っていることに気が付いても、蔦重や唐丸という血が繋がらない弟たちに「お前たちが使ったたんだろ!」と追及しないのが次郎兵衛にいさんのお人柄。
けれども、いつもなら「店の金が減った」なんていう問答をしていたら、すぐに会話に入ってくるはずの唐丸はずっと背中を向けたまま。蔦重も次郎兵衛も「ひょっとしたら……」と勘付いてたのではないでしょうか。
でも、唐丸はお小遣い欲しさに店の金を無断で使い込むような子ではないことは二人とも重々承知。
■「働きすぎておかしくなっちゃう」というにいさん
駿河屋(高橋克実)の親父さんに殴られている蔦重を助けようとして、自分が殴られて鼻血を出してしまうにいさん。
絵師が仕上げた錦絵を、花瓶の敷物にしてして水浸しにするという大失敗をやらかすにいさん。(しかし、蔦重は愕然としながらも、にいさんをなじったりはしない)

次郎兵衛にいさんが水浸しにしてしまった、礒田湖龍斎「雛形若菜」
蔦重に「にいさん、寝てていいから店番してて!」とか「あいつ(唐丸)はきちんと家業を継ぐ。にいさんじゃねえんだから」とか、軽くディスらている始末です。
そんなにいさんのキャラに癒されている人は徐々に増えていますが、特に人気が爆上がりしたのは第五話の場面です。
自分の店なのに、蔦重に店番をまかされていたにいさん。帰ってきた蔦重に、「やっと帰ってきた、重三。俺もう帰っていい? “働き過ぎて”おかしくなっちまいそう」というセリフに笑った人は多いでしょう。「いかにも次郎兵衛にいさんらしい!」と、逆に株を上げていました。
「疲れたあ~」と、ぼんやりしながらのんびり「ポッピン」を鳴らしながら帰っていくにいさんに和んだ人も多かったようです。
■「ぽっぴん」は唐丸が喜多川歌麿であることの前フリ?
ぽっぴんは、江戸時代のガラス製のおもちゃのこと。オランダ伝承の玩具で「ビードロ」とも呼ばれています。球形や台形をしたガラスの「頭」に細長い管が付いていて、その管の先を口に咥えて息を吹き込むと、気圧差とガラスの弾力によって底がへっこんだり出っ張ったりします。
ポッピンは江戸時代後期に中国から伝わったそうで、正月に吹くと厄除けになるといわれていました。
喜多川歌麿の有名な美人画にも「ポッピンを吹く女」という作品があります。もしかしたら、にいさんがどこで買ったかしらないけれどもポッピンを吹いているのは、唐丸が成長して喜多川歌麿になって蔦重の前に姿を現すのでは……と推測する声もあります。

ビードロを吹く娘(ポッピンを吹く女)喜多川歌麿
ぺこんぺこんと、ポッピンを鳴らしながら眠たそうに去っていくにいさん……いろいろ心配なところも多いキャラですが、時折仕事で悩み釈然としない様子の蔦重に「はあ。なんだ重三、欲が出てきたって話かい?」などと、鋭い指摘をすることも。
ただの「癒しの存在」では終わらないような予感がします。
金持ちの坊ちゃんとして育ってきた大らかさと、吉原という特殊な環境を生まれ育ってきてからずっと見てきたところが、あのキャラクターになったのでしょうか。
のんびりキャラはそのままに、今後は「つたや三兄弟」の長兄として、実子と養子の立場などは気にせずに、あの調子で蔦重の活躍を支えてくれるような存在になるような気もします。
第六話でも、「本は文字が多くて嫌いだ~」などとのんきなセリフを言ってますが、それが逆に蔦重にとってはビジネスヒントになったようです。
■この時代のおしゃれなにいさんの着物や小物にも注目
次郎兵衛は、ドラマの場面ごとに洒落た衣装を何度も着替えてみせてくれます。たぶん、働くのは嫌いだけれど流行り物には敏感でお洒落は大好きなキャラクターという演出でしょう。大きな格子柄や縞柄などの着物や帯、半衿などの小物類にも注目です。

高名美人見たて忠臣蔵十二段 喜多川歌麿(一部)柄on柄の男性の着こなし
衣装を担当している伊藤佐智子さんによると、江戸中期の衣装は色柄ともに多種多様なので、浮世絵(喜多川歌麿、東洲斎写楽、鳥居清長など)を参考にしているとか。
浮世絵では、町人を含めてみな襟元が“ぐずっ”としていて、きっちりと襟を合わせて着ている人はいないので、襟元を緩く着付けて自身が長年趣味で集めている江戸裂を半衿にしているそう。

神社の食事処でのお見合い。鳥居清長 長い羽織も流行っていた。
とかく彩りが華やかな花魁の着物に目が行きがちですが、この当時の男性の着物も実に凝っています。
蜘蛛の巣柄の着物に雲柄の羽織の着こなしが様になっている平賀源内、細い縞柄で若々しさが表現されている蔦重、知的ながら色気も感じられるシックな着物の地本問屋の主人たち……そしてつばめ柄の羽織や派手な縞柄の羽織など凝った次郎兵衛の衣装にも注目です。

歌舞伎役者を描いた東洲斎写楽の浮世絵。襟元が緩く柄on柄の組み合わせ。蔦屋の印が。

蔦屋を示す「富士山形に蔦の葉」
トップ画像:大河ドラマ「べらぼう」公式ホームページより
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