大河ドラマ「べらぼう~蔦重栄華乃夢噺~」で、圧倒的な存在感を放っている、花の井こと五代目瀬川花魁(小芝風花)。

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大河ドラマ「べらぼう」公式サイトより

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大河「べらぼう」繁盛しても地獄の吉原。五代目・瀬川花魁(小芝風花)の運命を左右した3冊の本【前編】


第7回「好機到来『籬(まがき)の花』」(2月16日)では、蔦屋重三郎(横浜流星)版吉原ガイドブック『籬の花』の売り上げ貢献のため、妓楼・松葉屋に代々伝わる「瀬川」花魁の名を継ぐことを決意、その話題を『籬の花』に記載しろと蔦重に提案するという、男前な行動が絶賛されていました。


第八話「逆襲の『金々先生』」(2月23日)では、『籬の花』の大ヒットで吉原は大繁盛し瀬川花魁に会いたいという客が激増。それを願って五代目を継いだものの、肉体的にも精神的に負担が増し苦境に陥る瀬川が描かれ、改めて吉原というシステムの残酷さが浮き彫りになりました。

そんな瀬川の運命やいかに……。心情の変化や瀬川らしい心意気、彼女の運命を左右した3冊の本について探ってみました。

大河「べらぼう」繁盛しても地獄の吉原。五代目・瀬川花魁(小芝風花)の運命を左右した3冊の本【前編】


吉原の花魁道中の図 public domain

■大繁盛するほど花魁たちの負担が増す地獄の吉原

蔦重が手がけた『籬の花』は、ライバルの西村屋(西村まさ彦)が出版した『新吉原細見』の半額で、しかも「花の井花魁が五代目瀬川を襲名」という最新情報を掲載したために飛ぶように売れました。

そして、瀬川に一目会いたいという客が激増し妓楼・松葉屋も大繁盛します。けれども、その分、花魁は体も心も酷使して客の相手をしなければならなくなったのです。

大河「べらぼう」繁盛しても地獄の吉原。五代目・瀬川花魁(小芝風花)の運命を左右した3冊の本【前編】


懐紙を口にくわえた高位の遊女。次のお座敷に急いでいるのか。三代歌川豊国画、歌川国久

嫌われ者の客、精力絶倫で乱暴な「強蔵」吉原では、精力絶倫で乱暴な性行為をしかける客は「強蔵(つよぞう)」という隠語で呼ばれて嫌われていました。けれども繁盛している妓楼はそんな客でも受けてしまうのです。

高いびきで寝る強蔵の横で起き上がる瀬川は、体が痛むのか苦しそう。
「めちゃくちゃしやがって」という瀬川の言葉、部屋中にたくさんちらばった行為後の塵紙が、いかにNo.1の花魁とはいえど、こんな客を相手に体を売らなければならないという吉原の過酷な現実を突き付けてきます。

蔦重は、吉原が再繁盛したのは瀬川のおかげなのに、強蔵を相手にさせた妓楼の主人に怒るのですが相手にされません。けれども、瀬川が強蔵を断れば、ほかの松の井(久保田紗友)やうつせみ(小野花梨)が相手をしなければならないのです。

「じゃあ、あたしならいいのかい?うつせみならいいのかい?」と怒った松の井に詰め寄られて、何も言い返せない蔦重。激怒する松の井を止めるうつせみの首には、あきらかに絞められたみえる赤い跡がありました。ろくでもない、遊女を苦しめて快感を得るような下衆な客の相手をさせられたと推測できます。

吉原への客が減れば妓楼は儲けを出せず遊女も困窮する。けれども、客が増えればタチの悪い客が増え、遊女の身も危険にさらされる。寂れれば苦界、けれども繁盛すれば地獄の吉原です。瀬川を救う道は、せめて金持ちに「身請け」され、この地獄から抜け出すことしかないと蔦重は思ったのでしょう。

大河「べらぼう」繁盛しても地獄の吉原。五代目・瀬川花魁(小芝風花)の運命を左右した3冊の本【前編】


賑わいをみせる吉原。歌川豊春 新吉原夕暮れ透視図

■瀬川が何度も読み返す本は蔦重から貰った宝物

休みなく客を取らされ疲労困憊の瀬川は、束の間の休み時間、幼い頃に蔦中がくれた赤本(※)『塩売文太物語』を読みます。


「塩売の文太夫妻の一人娘・小しおは心優しい娘で、文太が預かっていた大宮司のオスのオシドリが一羽だけで籠に閉じ込められているのを、恋人と別れた我が身と重ねて不憫に思い籠から放つ。その後いろいろな体験をするも、おしどりの恩返しもあり恋人と再会し幸せになる」という内容です。

大河「べらぼう」繁盛しても地獄の吉原。五代目・瀬川花魁(小芝風花)の運命を左右した3冊の本【前編】


オス(左)とメス(右)のおしどり wiki

最終的に「良縁に恵まれる」話なので、祝儀物として婦女子から歓迎され、嫁入り道具の1つとして重宝されていた本だそうです。

蔦重が「自分の宝物」と言ってくれた本を手に取るひとときは心が安らぐからか、それとも「どうにもならない境遇でも、ある日奇跡が起こり抜けだし、想い人と添い遂げられる」という本の内容に希望を感じるのか、何度も読んだのでしょう。その赤本はくたびれていました

※赤本:表紙が赤い本のことで、子ども向けの絵本の一種。

大河「べらぼう」繁盛しても地獄の吉原。五代目・瀬川花魁(小芝風花)の運命を左右した3冊の本【前編】


赤本『塩売文太物語』(NHKべらぼう公式HPより)

■瀬川の運命を大きく変える鳥山検校との出会い

ある日、瀬川のもとに、盲目の大富豪で高金利業を営む鳥山検校が来ます。「検校」は名前ではなく「盲人の中での最高の位」を表す言葉です。

江戸時代、盲人男性は「当道座」と言う同業者組合に属したのですが、そのトップに立っていたのが検校でした。「どうせ金持ちの嫌な客だ」と想像していた瀬川ですが、鳥山検校は、いきなり瀬川に双六や本などをプレゼントします。

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当道座の盲人。正装した検校(右)に挨拶する無官の盲人。寛政年間 wiki

妓楼では、客と花魁の「初会」の場合、花魁は口をきかない……というしきたりがあるため、「初会では口もきかないで退屈だろう。
本や双六を皆で楽しむといい」という鳥山検校の気遣いでした。

その行為に応え「もしよろしければ、1冊読みんしゃいましょうか」と申し出る瀬川。「それではしきたりに反するだろう」と遠慮する鳥山検校に対し「花魁の姿を楽しむのが初会。『声』を楽しんでなんの罰がありましょう」と返します。

実に機転が効く男前な瀬川らしい、粋なもてなしの言葉です。

瀬川が手に取ったのは『金々先生栄花夢(きんきんせんせいえいがのゆめ)』という、有名な本でした。

【後編】の記事はこちら↓


大河「べらぼう」繁盛しても地獄の吉原。五代目・瀬川花魁(小芝風花)の運命を左右した3冊の本【後編】
大河「べらぼう」繁盛しても地獄の吉原。五代目・瀬川花魁(小芝風花)の運命を左右した3冊の本【前編】


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