■歌舞伎における「金閣寺」とは
「金閣寺」は「祇園祭礼信仰記」という全五段の浄瑠璃の四段目にあたり、宝暦7年に人形浄瑠璃として初演された際には三年越しのロングランとなった大ヒット作です。大道具の仕掛けを使った金閣寺のせり上げが評判を呼び、歌舞伎でもこの場面が繰り返し上演されてきたため「金閣寺」と通称されています。
天下を狙う大悪人の松永大膳によって京都北山の金閣寺に捕らえられた、雪姫という女性がこの演目の主人公。三姫と呼ばれる女形の大役三つのうちの一つに数えられています。
■桜に縛られる美女の嗜虐美
雪姫に横恋慕していた松永大膳は、夫の狩野之介直信に代わって天井に龍の絵を描くか、自分のものになるかを雪姫に迫ります。困った雪姫は「お手本がないと龍を描くことはできないし、大膳さんの意にも従うことはできません」と断りました。
すると大膳は雪姫を桜の大木に縛り付け、無慈悲に「直信を殺せ」と命じます。その上、大膳こそが雪姫の父の敵であることも判明。憎き大膳に捕らえられ、夫まで殺されてしまいそう。なのに身動きが取れない…これは絶対絶命のピンチです。
雪姫が桜の大木に縛り付けられ悲しみ嘆くところへ降り注ぐ、花吹雪の演出は圧巻。絢爛な金閣寺の大道具と可愛らしい鴇色の衣装に舞い散る桜の花びらが映え、数ある歌舞伎の名作の中でも特に美しい場面です。
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■雪姫の持つまさかの能力!
雪姫は芯の強い女性で、花吹雪に吹かれて悲しみに暮れるだけでは終わりません。このピンチをなんとか切り抜けて夫を助けたい…と悩むうち、あるひらめきによって奇跡を起こすのです!
実はこの雪姫、水墨画の大家・雪舟の孫娘。幼い日の雪舟が、絵を描くことに夢中になるあまり叱られて柱に縛り付けられてしまったとき、涙で描いたねずみが縄を食い切ったという、家に伝わる故事を思い出します。この故事に倣って雪姫は足で桜の花びらを集め、爪先を使ってねずみの絵を描いてみることに。
すると、あら不思議。雪姫の一念を込めた絵から、本物の白ねずみが出現したのです!ねずみたちはチュウチュウと縄を食い切り、雪姫を自由の身にしてくれたのでした。
この場面は「爪先鼠」と呼ばれる「金閣寺」最大の見どころ。ねずみに助けられる美女といえば、シンデレラが思い浮かびますよね。なにやら難しそうな歌舞伎にもこんなにファンタジックな場面があるなんて、ちょっと意外ではないでしょうか?
魅力に溢れる登場人物や大道具の仕掛けなど、見どころいっぱいの「金閣寺」。
画像出典:写真AC
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