前回、川辺など淡水に潜む妖怪を紹介しました。江戸っ子たちにとって身近な存在だった妖怪は、海にもいたそうで、例えば海坊主や舟幽霊がそうでした。


■海坊主

姿は地域によって異なり大きさも2m~30m以上と様々ですが、かなりの大きさですよね。かつて和泉貝塚(現・大阪府)の浜辺に数日間現れた海坊主は、漆のように黒い身体で、体の上半身だけを海上からのぞかせていたとか。

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歌川国芳 『東海道五十三対 桑名』の海坊主

機嫌を損ねると凶暴になり、海の中に引きこまれたり船を沈没させられてしまうこともあるという怖い妖怪です。海で亡くなった人の霊が集まったものが海坊主と言われていました。

海坊主、船幽霊…向こうの世界に引き込もうとする、怨念たっぷりな海の妖怪たち


北尾政美『夭怪着到牒 』うみぼうず

人に危害を加えることもあるので遭遇したくない妖怪ですが、愛媛県松山市では、海坊主を見ると長寿になる、という縁起のよい言い伝えもありました。

■船幽霊

海上で遭難して溺死した人たちの幽霊が、船幽霊です。人の形や船の形をしており、日本だけでなく世界中の海に棲息していたそう。沈没船に乗って現れ、人間が乗っている船を沈めて自分たちの仲間にしようとするのだとか。なんだか、海坊主と似ていますよね。

団体で現れるのが特徴で、唐の鬼哭灘というところでは、船が通りかかると、禿頭で首なしの片手片足の、背の低い幽霊が約100人も現れ、船をひっくり返そうとしたとか!想像するだけでも、恐ろしいです。

海坊主、船幽霊…向こうの世界に引き込もうとする、怨念たっぷりな海の妖怪たち


作者不明『土佐化物絵本』

海上で突然船が進みづらくなったり、不穏な空気になったら要注意。いつの間にか船幽霊に船のまわりを囲まれて、「柄杓を貸せ」と言われるのです。
言う通りにすると、柄杓で海水をすくって船を水浸しにして沈められるので、底を抜いた柄杓を海へ投げつけた者もいたとか。

海坊主、船幽霊…向こうの世界に引き込もうとする、怨念たっぷりな海の妖怪たち


竹原春泉『絵本百物語』

また、船幽霊に食べ物を与えると消えることもあったそうです。船幽霊の正体は、空腹のまま海の上で飢え死んでしまった人たちの霊なのかもしれません。

海坊主にしろ船幽霊にしろ、海にいる妖怪は、現実世界から向こうの世界に引き込もうとする怨念があるので、遭遇したくない類いの妖怪ですね。

参考文献:

  • 山口敏太郎(2002)『江戸武蔵野妖怪図鑑』
  • 小松和彦(2015)『知識ゼロからの妖怪入門』

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