■吉原限定の名物スイーツ

上は花魁から、下は無名の遊女に至るまで美女が妍を競った吉原ですが、見どころは美人ばかりではありませんでした。今の東京の歌舞伎町や銀座、大阪のなんばのような繁華街・歓楽街をも兼ねていた吉原には、そこでしか手に入らないお土産が多く売られていたのです。
ここでは、前回の甘露梅に続いて吉原の名物スイーツについて紹介いたします。

今でも、クラブへ行く男性がケーキなどをお土産に持って行くことがありますが、それは江戸期の遊里でも同じでした。女性に高級なお菓子をプレゼントして「きゃ~、嬉し~!」とはしゃがれて喜ぶ男性の心理は、江戸時代から続く伝統なのかもしれませんね。

閑話休題。吉原にあった『竹村伊勢』と言うお菓子屋さんで売られた『最中の月』という菓子は、遊女屋で働く女性陣にはとても嬉しいお土産でした。『竹村が 月は座敷を かがやかし』つまり、竹村伊勢で買ったこのお菓子を目にした女性陣が、これこそ目の色を変え、黄色い声を上げて殺到する様子が、見事に詠み込まれています。

遊女も喜ぶ名物「最中の月」が人気、江戸吉原スイーツの名店「竹...の画像はこちら >>


この『最中の月』は、名前からしてお菓子のモナカに思えてしまいますが、実はあんころ餅の一種だった、とする説もあります。お砂糖が高価で遊女はなかなか口に出来ないのはもちろん、あんこもお餅も今のように機械で作り置きが出来ない時代だったので、名店のあんころ餅はお座敷をにぎやかにさせるだけの魅力があったのです。

■あんなことにも使えちゃう?甘くて便利な巻き煎餅

女性にモテたい粋な遊び人にぴったりの『最中の月』以外にも、竹村伊勢には如何にも吉原らしい逸品がありました。それが、巻き煎餅です。これは小麦粉で出来た生地を巻いて焼き上げた素朴な物ですが、筒のような形状をしていました。つまり、空洞の部分を管代わりにも使えたのです。


こうしたお菓子を使って吉原ですることと言えば、やはり色恋にまつわることですね。張見世の格子から遊女と客人が巻き煎餅を使ってお茶を口移しにする、言わば間接キスが行われていたのです。そうした遊びが出来るのは、間夫と呼ばれる本気で惚れ合った仲の男だったのだから、何ともアツい話です。

遊女も喜ぶ名物「最中の月」が人気、江戸吉原スイーツの名店「竹村伊勢」


ただし、そうした『火遊び』が過ぎてしまった旦那様や若旦那には、格子は格子でも座敷牢に入れられるお仕置きが課せられてしまい、『牢見舞 巻せんべいや かんろ梅』という状態でスイーツを味わいながら、吉原の余韻に浸る羽目になった人もいたようです。

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