江戸時代、人気絵師として活躍した「英 一蝶(はなぶさ いっちょう)」という人物を知っていますか?人気絵師でありながらその名前は一般に広く知られているとは言えませんが、非常に波乱万丈な興味深い人生を送った絵師です。

今回は英一蝶の人生を辿ってみたいと思います。


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英一蝶「涅槃図」

牢屋暮らしに島流しも経験、江戸時代の絵師で芸人さん「英一蝶」の波乱万丈すぎる人生

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■狩野派破門&吉原遊郭で遊ぶのだーいすき♡

1652年(承応元年)、一蝶は京都に生まれます。15歳の時に、医師だった父が江戸転勤(不確定)となり、それにあわせて家族そろって江戸に住むこととなります。一蝶は絵の才能を買われて狩野派・狩野安信の元で絵を学ぶことになりますが、2年ほどですぐ破門されてしまいます。一蝶の才能をまわりが妬んだのがきっかけ、との推測もされています。

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英一蝶「朝暾曳馬図」

破門をされても画業はつづけますが、画業の他にも俳諧や書にも興味をもちマルチな才能を発揮していきます。この頃、かの松尾芭蕉とも親交がありました。

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江戸時代の絵師の中には、尾形光琳や歌川国芳、河鍋暁斎(活躍は明治ですが)をはじめ、実に豪快で破天荒な性格、暮らしぶりをしていた絵師が少なくありませんが、一蝶もそのひとり。江戸時代の歓楽街・吉原遊郭で遊ぶのが大好き。足しげく通います。

■芸人としての才能まで開花

ただ、一蝶は遊郭で楽しむだけではありません。吉原遊郭で自ら芸人としても活躍。その芸の腕は逸品で、絵画、俳諧、書道などの芸術分野の枠を超えた才能を発揮します。
才能ある者のもとにはさまざまな人間が吸い寄せられるわけで、一蝶は大名や豪商、芸術家など多方面の人とも親交が多かったといいます。

牢屋暮らしに島流しも経験、江戸時代の絵師で芸人さん「英一蝶」の波乱万丈すぎる人生

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牢屋暮らしに島流しも経験、江戸時代の絵師で芸人さん「英一蝶」の波乱万丈すぎる人生

牢屋暮らしに島流しも経験、江戸時代の絵師で芸人さん「英一蝶」の波乱万丈すぎる人生

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牢屋暮らしに島流しも経験、江戸時代の絵師で芸人さん「英一蝶」の波乱万丈すぎる人生


英一蝶「盆踊り図」

■罪を犯し入牢、そして流罪に

そんなハイパーマルチクリエイター英一蝶ですが、1693年(元禄6年)に罪を犯し牢屋に入れられてしまいます。理由は、彼の言動が幕府の怒りを買ったとされています。

2ヶ月後には釈放されるのですが、なんと5年後にまたもや罪を犯して捕まってしまうのです…。

理由は、第5代将軍徳川綱吉によって制定された生類憐れみの令に対する違反であったとか。今回の罪は5年前の罪のように入牢だけでは済まされず、三宅島への島流しとなります。

この時すでに一蝶は46~47歳。今ほど寿命が長くなかった江戸時代の事を考えると「俺、人生ツモった…」と萎えてしまいそうなものですが、ここで腐らないのが英一蝶。江戸に残した家族への仕送り、そして島で助けてくれるひとたちのために絵を描き続けます。この三宅島時代に描かれていた一蝶の作品は島一蝶とも呼ばれます。

牢屋暮らしに島流しも経験、江戸時代の絵師で芸人さん「英一蝶」の波乱万丈すぎる人生


英一蝶「布晒舞図」流刑中に制作

■12年もの流罪からついに開放

一蝶の三宅島での生活は12年にも及びました。1709年(宝永6年)に、生類憐れみの令を制定した徳川綱吉が世を去り、刑が許された一蝶は江戸に戻り再び人気絵師として絵を描き続けます。
そして忘れてはならない、芸人としての活動も再開。

牢屋暮らしに島流しも経験、江戸時代の絵師で芸人さん「英一蝶」の波乱万丈すぎる人生


英一蝶「月次風俗図屏風」

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英一蝶「群盲撫象図」

その後も絵師として作品を残し続けますが、1724年(享保9年)、73歳でこの世を去ります。三宅島から江戸にもどって15年後のこと。

73年の人生に幕をとじた一蝶ですが、実は一蝶には息子が二人いました。長男、次男ともに画を生業とし、ともにお父さんと同じ英一蝶を名乗り活動しました(次男は 英一蜩 という漢字)。

人気の絵師としてその一生を遂げた一蝶。その人生は芸術分野でのマルチな才能発揮、芸人としても活躍できる人を魅了する力で多くの親交をもち、そして入牢、三宅島への流罪と、波乱万丈なものでありました。

興味深い人生を送った人気絵師・英一蝶ですが、他の絵師に比べて一蝶の名は一般的にはそれほど知られたものではありません。今日まで伝えられてきた彼の情報には不確定な部分が多いというのが、理由のひとつかもしれませんね。

絵師がどんな人生を送ったのか知った上で作品を観てみるというのもまた、面白い楽しみ方かもしれませんね。

※英一蝶は名前を色々持っていて、英一蝶と名乗ったのは三宅島から江戸に戻ってきた頃。

画像出典: 東京国立博物館、ボストン美術館

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