実は、古代日本の伝承にはこの亀仙人そっくりな人物が登場します。それが、本項の主人公・久米の仙人です。
■仙人の大失敗、その理由は…何と美女のサービスカットだった
伝承によると、久米の仙人は天平年間(729年~49年)の人で、今の奈良県に当たる大和国吉野郡にある竜門寺と言う所で修行に励んでいたと言います。安曇と言う仲間が空飛ぶ術を完成させたのを見た久米も発奮し、ようやく雲に乗る魔法を体得した…のですが、大失敗をやらかしてしまいました。
吉野川(もしくは久米川)で洗濯している若い美女の、白いふくらはぎが久米の視界に入り、それに心を動かされたのです。そうした煩悩は修行の妨げであり、久米は神通力を失ってしまいました…女絡みの失敗、好色が原因で雲に乗れなくなるなど、亀仙人そっくりですね。このエピソードは兼好法師の『徒然草』など文学作品に散見し、主に色欲を諌める教訓として知られています。

龐居士、霊昭女図屏風 (見立久米仙人図屏風)- 曾我蕭白
■リア充だって悪くない♪久米は気ままな俗人ライフを楽しむ

久米寺・多宝塔
さて、色に惑わされてとっても痛い&恥ずかしい思いをした久米の仙人は、その後どうなったのでしょうか?『徒然草』などではただの人間に戻って終わっていますが、『今昔物語』や数々の伝承では、少しかわいそう(健全な男子から見れば)な目に遭った久米の後日談が記されています。
俗人に戻ってしまった久米ですが、何と自分が見とれた娘と結婚してしまいます。すなわち彼女は、自分に対して覗きのようなことをした男性と結婚したわけです。二人の間にどんなやりとりがあったのか不明ですが、気の毒に思ったのかもしれませんし、以下のように娘が惚れこんでしまったのかもしれません(笑)。
「先生ってば、私に見とれて神通力を失ったんですか…美しいって罪よね~♪」とでも思い、久米を婿殿にしたのかな…などと考えてしまうと、何だか楽しいですよね。
■漢の一念建材を動かし、久米の仙人、史上に名高い名刹を建てる!

久米寺本堂
結婚後は一俗人としてささやかながらも楽しく暮らしていた久米でしたが、朝廷のおふれで労役に参加したことで運命の歯車が動き始めます。久米が元仙人であることを知った労働者や役人が、「神通力で何とかしてくれ」と言い出したのです。一説には、失敗したことを引き合いに出して侮辱されたとも伝えられます。
いずれにせよ、元は自分も仙人だったことを思い起こした久米は一念発起し、七日七夜の苦行にチャレンジし、神通力を回復します。復活を遂げた久米の魔法は絶大で、建材は空を飛んで目的地に無事運ばれ、朝廷の工事は滞りなく終わりました。
それを聞いた時の帝・聖武天皇はたいそうお喜びになり、『久米殿に恩賞を』と30町の免田を賜ります。免田は税金を免除された田畑で、それを所有するのは滅多に得られない特権だったのですが、久米はその土地に寺を建立しました。それが、今も信仰を集める名刹・久米寺の始まりです。
いかがでしたか?古代日本の英雄と言えば超人的な強さが持ち味と思われがちですが、優秀なのかコミカルなのか分からない、これこそ『古代版亀仙人』と言える久米の仙人みたいなキャラクターも魅力的です。そんな魅力こそが、科学万能の現代でも人々に愛される存在である久米が、今でも発揮し続けている神通力なのかもしれませんね。
画像:Wikipediaより『久米寺』『仙人』
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