■今も儀式で着用される束帯は、男性貴族のフォーマルスーツだった
束帯を着用した阿部正弘
平安時代、高貴な殿方が着用した衣装として有名なのが束帯(そくたい)です。今でも皇室の儀式を始め、格式の高い神社仏閣のお祭りなどでお目にかかることもあるのではないでしょうか。
絵などで見る束帯は、一見するとヒラヒラした衣装に袴を着用しているので着こなしやすそうに見えます。しかし、束帯には肌着である単(ひとえ)と表着の間に衵(あこめ)や下襲(したがさね)などの中着を着るなどのしきたりがありました。
また、文官と三位以上の武官は縫腋袍(ほうえきのほう)と呼ばれる腋を縫って裾に横布が付いた衣を、四位以下の武官は動きやすい闕腋袍(けってきのほう)を着ることになっていたのです。また、冠や剣も身分によって違いがありました。フォーマルスーツについて悩む男性は今も多いですが、そうしたドレスコードを把握せねばならない平安貴族の男性も大変だったでしょうね。
■実用性バツグン!働くオトコの勤務服・衣冠
衣冠束帯と言う言葉がありますが、それは江戸期以降に公卿や皇室の装束を混同したものとされます。束帯は正装なのに対し、衣冠は勤務服として発達しました。この衣冠は束帯で着用する義務がある下着類を省き、石帯と言うベルトも使わずにゆったりした袴を穿くスタイルです。
色の組み合わせや文様には身分差がありましたが、文官・武官を問わず縫腋袍を着用します。
ちなみに、この衣冠は現代でも皇室で祭祀を担当する人々の祭服、もしくは神職などの正装に使われています。
■のちに武家の装束にもなった狩衣、もとは普段着だった?

最後は、平安貴族の普段着とも言うべき狩衣です。これは文字通り、狩りなどスポーツや肉体労働を伴う時に用いられた衣装で、もとは中流階級の都人がおしゃれ着として考案した布衣(ほうい)と言うものでした。
正装の束帯はもちろん、勤務服の衣冠よりも更に動きやすく、上皇や公卿など高貴な人々からも普段着として愛好されます。時代が下ると貴族だけでなく、武家の礼装にも使われるようになりました。この狩衣は神職の衣装はもちろん、大河ドラマや京都市時代祭などでも有名ですね。
どうでしたか?平安時代のおしゃれと言えば女性のものばかりに目が行きがちですが、男性貴族も様々な場でファッションを磨いていました。多忙を極める中でも正装に勤務服、おしゃれ着と身だしなみに気を配り、着こなし方を磨き続けた男性貴族は、まさに当時のファッションリーダーだったのです。
画像:Wikipedia『束帯』『狩衣』
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