空海といえば「弘法大師」の名でも知られる平安時代の僧で、真言密教の開祖。また三筆のひとりにも数えられる能書家です。
絹本著色弘法大師像
そんな空海が、実は言語も堪能だったことをご存知でしょうか。空海は遣唐使として留学した先の中国語はもとより、サンスクリット語すらも巧みに操ったといいます。
空海が遣唐使として留学する際、留学期間は20年と定められていました。しかし、空海はたった2年あまりで帰国。あまりにも早すぎる帰国には、空海の言語習得能力が関係していたと考えられます。
■中国語は留学前に習得していた?
不思議なことに、空海は中国に留学する前に中国語を習得していたと考えられています。
空海が中国へ渡るために乗った船は途中で嵐に遭い、福州長渓県赤岸鎮に漂着しました。嵐に遭った際に遣唐使であることを示す書類を紛失した一行は海賊ではないかと疑いをかけられますが、これをうまくとりなしたのが空海でした。
空海は州の長官へ宛てた嘆願書を書いたのです。これがなんとも見事な文章で、遭難のひどさを物語る優れた内容だったんだとか。空海らが唐へ漂着して数か月。
なぜ留学以前から語学堪能であったか。確かなことはわかりませんが、一説によれば空海が幼少期から他言語に触れる環境にあったことが理由ではないかといわれています。
空海誕生の地とされる香川県・善通寺
空海は讃岐国(現在の香川県)の生まれ。讃岐は中国・朝鮮からの渡来系民族が多く、空海は彼らの言語を耳にする環境にあったのでは、ということです。言語は目で見て読んで学ぶよりも耳で聴いたほうが早く覚えるというので、あながちこの説は間違いではないかもしれません。
■サンスクリット語(梵語)はたった3か月でマスター!?
さらに驚くべきは、空海が留学後サンスクリット語をたった3か月でマスターしてしまったという逸話です。インド出身の僧から直接教わったとはいえ、3か月とは驚異的な早さです。
ただ、現代でももともと言語を複数操る人は新しい言語を覚えるのが早いといわれているので、空海が中国語をネイティブ並みにマスターしていたと考えるとあり得ないことではないのです。
空海がサンスクリット語をマスターしていたと考えられる根拠としては、彼が「声字実相義(しょうじじっそうき)」という仏教書を著していることが挙げられます。この書物は、音声と文字が宇宙の心理、すなわち大日如来を本質的に示すものであると説く密教の考え方をまとめた本ですが、サンスクリット語の文法などをまとめた言語学書でもあります。本にまでしているのだから、やはり空海はサンスクリット語を巧みに操っていたといえそうです。
そういうわけで、言語をすんなりと習得してしまった空海は他の面でも学習が早く、20年滞在の予定が2年あまりで帰国してしまった空海。あまりに帰国が早かったことから国からはかなり怪しまれ、闕期(けつご)の罪を問われるなどしばらく不遇の身にあったといいます。優秀すぎるばかりにこんな目に遭うとは、空海も不運ですね。
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