高梨臨さん演じる「ふき」は、薩摩出身の貧しい農民の娘でした。貧しさ故に売られていったふきは、めぐりめぐって江戸の品川宿で「お芳」という名で働いていたのです。ドラマでは「ヒー様」こと徳川慶喜といい関係になり、妾となって京や大坂まで一緒についていくほどの仲として描かれていましたね。
この「ふき」、実はモデルとなる人物がいたのです。
■慶喜の妾のひとり「お芳」
それは、お芳という名の女性です。ふきの芸者としての名前を聞いてハッと気づいた方もいるかもしれませんが、それがちょうど慶喜の妾(側室とも)とされている女性と同じ名前。
実在したお芳はどのような人物だったのかというと、江戸の町火消である新門辰五郎の娘でした。この父は火消しとしてだけでなく侠客としても知られた人物で、かなりの財力を持っていました。それだけ名をはせた人物なので、現在もドラマなどで登場することもあります。
新門辰五郎は、娘のお芳が慶喜の妾になったことから、慶喜上洛の際に二条城の警護などを仰せつかっていたのだとか。慶喜だけでなく、父の徳川斉昭とも関係があった人物でした。
ドラマのふきとは違い実家には財力があったのですね。
慶応4年、慶喜が大坂城からひっそり脱出した際、お芳も幕府所有の軍艦・開陽丸に同乗して江戸へ帰ったとされています。ドラマ第36話では、ふきは慶喜に別れを告げて去っていきましたが、お芳も明治維新以降は慶喜のそばにはいなかったようです。
■慶喜の正妻
ドラマでは登場していないほかの妻たちを紹介しましょう。まずは正妻です。
徳川御三家の水戸徳川家の子であり、御三卿の一橋家の養子となった慶喜。征夷大将軍にまでなった人物ですから、当然正妻は身分の高い女性です。名前は一条美賀子(いちじょうみかこ)。父親は今出川公久(いまでがわきんひさ)という権中納言まで昇った公卿でした。結婚するにあたって従一位左大臣の一条忠香(いちじょうただか)の養女となっています。公武合体派で一橋を支持した人物でした。
この美賀子との結婚はあまりしっくりしなかったのか、結婚後3年経ってようやく長女を出産。
■側室
側室として知られているのは、一色須賀(いっしきすが)と新村信(しんむらのぶ)、中根幸(なかねさち)です。一色須賀は旗本の娘で、もともと慶喜の正妻・美賀子の女中でした。そこから側室になったとされていますが、子はなかったようです。
新村信も旗本の娘で、明治に入ってから慶喜との間に5男5女をもうけています。
中根幸も旗本の娘。こちらも明治に入ってから6男7女(うち1男1女は死産)をもうけています。
かなり子だくさんの慶喜。側室の中で明治維新後も慶喜がそばに置いたのは、新村信と中根幸だけだったといいます。
記録に残っている妻妾は以上の人物ですが、ひとり町人の娘であったお芳が印象的ですね。将軍となり、大政奉還を経て、鳥羽伏見の戦い、逃亡に至るまでを共に過ごした女性。
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