■日本における最初の罪

日本の最高神で太陽の化身である天照大神(アマテラスオオミカミ)の弟、素戔嗚尊(スサノオノミコト)。彼は姉であるアマテラスが統べる高天原で乱暴狼藉を働いたために、アマテラスが恐れをなして「天岩戸」に隠れてしまった伝説はよく知られています。


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十和田湖の天岩戸神社

世界は暗闇に閉ざされてしまったため、アマテラスを外へ誘うために神々は計画を立てます。外で酒宴を開き、何事かとアマテラスが外を覗いた瞬間に天岩戸をはぎ取ります。アマテラスを外へ連れ出すことに成功し、無事に世界は光を取り戻せました。

しかしその後の顛末はあまり知られてはいないのではないでしょうか。

スサノオは髪の毛を抜かれ爪をはがされ、千座の置戸(ちぐらのおきど)を贖罪として科されます。このことから、伝説の上とはいえ、スサノオが日本史上初めての罪人とも言えるでしょう。

「千座置戸」とは、辞書では「多くの台にのせた祓物の一種」とあります。また、上代(おおむね奈良時代以前)には、犯罪者に罪の償いとして科した刑との説明も。

千は多数という意味から、スサノオは沢山の物品を差し出さなければならなかったということでしょう。要するに一定の「財産」を没収されたと言い換えることもできますね。

そしてスサノオは「根の国」=死者の国へ追いやられ、そこを統べる神となったのです。髪や爪など肉体の一部を剝ぐという行為は、その者の一部を人質にとるのと同じ意味があったようです。


神とはいえ、日の光を奪った罪は重かったようですね。

さて、スサノオが高天原で行ったとされる行為は、古代の『天津罪』の元になったと言われています。では実際にどのような罪があったのでしょう。

日本で最初に罰を受けたのは日の光を奪ったスサノオ?串刺、糞戸、死膚断…古代の罪を紹介


Wikipediaより『須佐之男命』歌川国芳作

■古代の罪

《天津罪》 スサノオはアマテラスが大嘗祭という大事な神事を行う神殿で糞をまきちらし、アマテラスの田の畦に串を打ち、天斑駒(あまのふちこま)という立派な馬の皮をむいて織物小屋に投げ込みます。そのとき、織おり女はその勢いで機織り機の部品で女陰をつき死んでしまいます。

下記の天津罪のなかで該当する行為は「串刺」「生剝」「糞戸」ですね。それにしてもスサノオ、やりすぎです。

  • 畔放(あはなち)…水田の口を破壊して水を放出させ苗を枯らしたり、逆に水を流入させて、畔を壊すこと。スサノオも高天原で行った行為です。
  • 溝埋(みぞうめ)…水田に水を引くために設けた溝を埋めて妨害すること
  • 樋放(ひはなち)…水田に水を引くために設けた管を壊し妨害すること
  • 頻播(しきまき)…他の人が種を蒔いた所に重ねて種を蒔いて作物の生長を妨げること
  • 串刺(くしさし)…水田にたくさん串(杭?)を挿して妨害すること
  • 生剥(いきはぎ)…馬の皮を生きながら剥ぐことと
  • 逆剥(さかはぎ)…馬の皮を尻の方から剥ぐことと
  • 糞戸(くそへ)…糞尿を人家や田畑に塗りつけること
羅列してみると、ほぼ農耕や家畜に対する行為ですね。稲作の妨害がどれほど大きな罪だったかがわかります。

《国津罪》
  • 生膚断(いきはだたち)…生きている人の肌に傷をつけることで、傷害罪に相当します
  • 死膚断(しにはだたち) … 死んだ人の肌に傷をつけることで、死体損壊罪に相当します
  • 白人(しらひと)…白斑病にかかること。
    こういった病気にかかるのは罪を犯したからだという考えから。
  • 胡久美(こくみ)…いぼや瘤が、象皮病などになること
  • 己が母犯せる罪 …実母との近親相姦
  • 己が子犯せる罪…実子との近親相姦
  • 母と子と犯せる罪…男が女とその子を犯すこと
  • 子と母と犯せる罪…男が女とその母を犯すこと
  • 畜犯せる罪…獣姦のこと。『古事記』には「馬婚(うまたわけ)」、「牛婚(うしたわけ)」、「鶏婚(とりたわけ)」、「犬婚(いぬたわけ)」と記述があります。
  • 昆虫(はうむし)の災 …毒蛇やムカデ、イナゴなどによる災難にあうこと
  • 高つ神の災…落雷などの天災
  • 高つ鳥の災…鳥による家屋損傷などの災難
  • 畜仆し(けものたおし)…みだりに動物を殺すこと
  • 蠱物(まじもの)する罪…生け贄を捧げ呪詛を行うこと
これらの罪には下記のような刑罰が科されました。

  • 焚殺(ふんさつ)…焼き殺すこと
  • 火罪…火あぶり
  • 散梟(ちらせくしさせ)…死刑の後、死体をさらすこと
  • 斬刑
  • 流刑
  • 移郷…村や集落から追放すること
  • 徒刑(ずけい)…島流しにして労役させること
  • 黥刑(げいけい)…入れ墨を入れ罪人としらしめること
  • 贖罪…金品を出し罪をあがなうこと
病気や天災など、自らの意思に反して起きてしまったことも「その者に罪があるから災いが起きたに違いない」という罪になってしまうのは、恐ろしいことですね。

参考文献:『古事記』『日本書紀』『大宝律令』より

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