昔から、奥州の東北(青森・岩手県)ではそう子供を脅して躾けるご家庭もあるとか。
そんな泣く子も黙るほど恐ろしい経立とは、いったいどんな妖怪なのでしょうか。
■ケモノが立って歩き出す
鳥山石燕『画図百鬼夜行』より「猫また」
経立とは、異常に長生きした動物の化けた妖怪で、その多くが二足歩行するようになったことから
「年、経(ふ)りて立ちぬ」
つまり、年を経て立った様子を「ふりたち」と呼び、それが訛って「ふったち」となったそうです。
基本的にはどんな生き物でも化けるようで、多く伝説が残るメジャー?な猿をはじめ、狼(おいぬ。御犬)や犬猫、中には鳥や魚まで化けた事例もありました。
そう言えば、長生きした猫の尾が裂けて二本となり、立って歩くようになる「猫叉(ねこまた)」も、経立の一種と言えそうです。
■色々な経立たち

さて、色んな生き物の化けた経立ですが、どんな生き物がどんなエピソードを残しているのか、その一部を紹介したいと思います。
経立の中で最も多い?のが、かの『遠野物語』にもよく登場する猿の経立。
その姿は人間によく似ていて、しばしば村の女性をさらう助兵衛さや、漆に砂を混ぜて自分の毛皮を塗り固める知恵を持っており、銃で撃っても弾丸が貫通しなかったそうです。

他に『遠野物語』には狼の経立も登場しますが、こちらは記述を読む限り、経立と呼ばれながらも四足歩行のままで、普通の狼とあまり変わりがないようです。
作中では三寸(約9~10センチ)の草むらに身を隠せたり、季節によって草むらの色調に合わせて毛色を変えられたりする能力の紹介や、家畜を食い殺したり、人間と取っ組み合いの死闘を演じたりなどのエピソードも伝えられます。

『遠野物語』以外にも、岩手県の下閉伊郡安家村(現:岩泉町)には、自分の卵(子供)が人間に食べられることを恨み、人間の子供たちを次々に殺した雌鶏の経立や、突如現れたイケメンが実はタラ(鱈)の経立だった、などの説話が残されています。
■四つ足とニつ足の間で
長く生きた動物は、立ちあがって知恵をつける。
そんな伝承が具現化した「経立」ですが、四つ足(動物)と二つ足(人間)の中間に位置する曖昧さが不気味さにつながり、恐れられてきたのでしょう。
いつしか語られなくなった彼らの存在ですが、今もどこかの闇にひそんでいるかも知れません。
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