現代ではあまり日常生活で弓矢に接することはないと思いますが、弓矢にまつわる慣用句は、意外と多く残っています。
以前紹介した「日本刀」にまつわる慣用句も合わせてどうぞ。
あれもこれも日本刀に由来!意外と多い暮らしに根づいた「日本刀」にまつわる慣用句を一挙紹介
■一矢(いっし)報いる
圧倒的に不利な状況か、もはや勝敗は覆せなくても、意地を見せるために行うせめてもの反撃を、矢の一撃に喩えたものです。
「50点差だったけど、試合終了2秒前にダンクシュートで一矢報いてやった」などと使います。
■弓馬(きゅうば)

弓を持って馬に乗る者、つまり武士の別名、またはその生業とする戦争や武芸全般を指します。「弓馬の家」「弓馬の道」「弓馬の騒ぎ」などと使います。また「ゆんば」と読むこともあります。
■白羽(しらは)の矢
「そこで君に、白羽の矢が立ったという訳だ」
何かに選抜されることを表す言葉で、最近では「プロジェクトチームにコミットされた」的な好ましい意味合いで使用されることが多いですが、元々はあまりよい意味ではありませんでした。
昔、神様が人身御供(ひとみごくう。人間の生け贄)を求める時、ランダムに白い羽のついた矢を射て、それが屋根に突き立った家から人身御供を出さねばならない風習があったそうで、その名残と言われています。
■図星(ずぼし)
的のド真ん中に描かれた丸部分(星)を言い、弓射はここをに当てるよう狙う(図る)ことから、物事の核心や急所を指します。
何かズバッと言い当てられ、うろたえる相手に対して「その顔……さては図星だな?」などと使います。
■的確(てきかく)
確かに矢を的に射当てられる状態や実力、転じて物事が正しく、確かなことを言います。
最近では同じ音で「適確」という字があてられることもありますが、意味は同じでも、弓矢から少し離れてしまいますね。
■手薬煉(てぐすね)
「あいつら、手薬煉引いて待ってやがるぜ……」
なんて皆さんは使わないと思いますが、特に好戦的な意味合いで準備を整えておくことを「手薬煉を引く」と言います。
薬煉(くすね)とは弓の弦を補強するために塗る練り薬で、あまり持続性がないらしく使用する直前に塗ることから、戦いの準備をする様子を言うようになりました。
ちなみに、弦に薬を塗る時、手の形が「泥棒鍵(人差し指を鍵状に曲げる。盗みのジェスチャー)」になることから「くすねる」もここから来ているそうです。
■筈(はず)

矢が筈にかかっている状態。
「そんな筈はないのですが……」
「彼なら、きっと来てくれる筈です」
何か当てがある時、よく使うこの言葉。
この筈とは、矢の末端に刻まれた細い溝を指し、ここに弓の弦を固定することで、弦が外れず、矢が確実に飛ぶようにしたものです。
弓を射る時、弦が矢の筈にかかっていることを前提とするため、転じて「当て込むに足りる根拠があること」を言うようになりました。
そして弦をしっかり筈にかける所作を「手筈を整える」と言います。
■目的(もくてき)
矢を射る時、目で的を狙うことから、狙う対象をそのまま「目的」と言うようになりました。
あまりにも当たり前すぎて弓矢が思い浮かぶこともないと思いますが、意外なところにも弓矢が潜んでいました。
ちなみに「的中(てきちゅう)」も「的に中(あた)る」意味で、弓矢に由来します。
■矢継早(やつぎばや)

「そんなに矢継早に訊かれても、答えきれないよ」
矢を射たら、すぐ次の矢をつがえて射て、また次の矢を……というように、次々と矢が飛んでくる状態、転じてぶっ続けに何かをする・される状態を言います。
「矢のような催促」なども、これと同じ意味です。
■弓を外す
弓から弦を外せば矢が射られないように、武装解除し、戦意がないことを示す意味で使われます。
また、弓も弦も張りっぱなしだと弛んだり歪んだりして使い物にならないため、適宜休む・休ませることも言います。
■弓手(ゆんで)
左手のこと。弓は基本的に左手で持ち、右手で弦を引き絞ったことからそう呼ぶようになりました。
しかし、それだけだと右側の敵を上手く射られない弱点を克服するべく、武士の中にはどちらの手でも弓の稽古をする者もいたそうです。
■おわりに

改めて振り返ってみると、まだまだ弓矢にちなんだ言葉がたくさんあります。
それらの言葉たちが生み出された背景に想いを馳せると、弓矢に慣れ親しんだ先人たちの積み重ねてきた歴史や文化が、より身近に感じられるのではないでしょうか。
日本の文化と「今」をつなぐ - Japaaan