日米欧の企業がロシア事業からの撤退を加速させている。ウクライナ侵攻に伴う経済制裁でロシア国内の部品調達網(サプライチェーン)が混乱していることにくわえ、国際世論の圧力に抗しきれなくなった側面もある。
2022年3月9日、モスクワ市中心部にあるファストフード大手「マクドナルド」の店舗は多くのロシア人でにぎわっていた。この前日、マクドナルドが欧米の経済制裁に呼応して、ロシア国内に展開する約850店を一時閉鎖する方針を発表しためだ。
マクドナルドがモスクワ中心部に1号店を出店したのは1990年。東西冷戦終結の象徴として歓迎されたが、30年以上が経過して再び戦争の影響に巻き込まれたかっこうだ。
マクドナルドだけではない。ロシアメディアによると、ロシア事業からの撤退や一時停止を決めた外資系企業は既に300社を超えているという。
日本企業も同様だ。ロシア国内に生産拠点を持つ自動車などの製造メーカーが事業の一時凍結に踏み切ったほか、大手飲食店も現地店舗の閉鎖を決定。任天堂やJT(日本たばこ産業)などはロシア向けの商品出荷を停止すると発表した。
各社は「物流上の問題」などと撤退理由を説明しているが、ロシア事業の一時停止を決定した企業の幹部は、こう漏らす。
「我々が事業を展開するマーケットはロシアだけではない。撤退が遅れ、他のマーケットに悪評が広がれば傷口はさらに大きくなる」撤退判断が遅れ、批判にさらされた企業も
その泥沼にはまったのが、「ユニクロ」を展開するファーストリテイリングだ。
欧米企業の撤退が相次ぐ中でも、同社はロシア事業の継続を表明。柳井正会長兼社長は3月7日付の日本経済新聞で「衣服は生活の必需品。ロシアの人々も同様に生活する権利がある」などと述べていた。
しかし、ロシアがウクライナでの攻撃を激化させる中、こうした態度は国内外の消費者の反発を招いた。10日、ロシア事業の一時停止を発表したがSNS上では「ロシアの人々の権利はどうなった」と皮肉られる結果となった。追い詰められての「遅れた撤退」といえそうだ。
ユニクロだけではない。海外でも石油大手シェルや、ドイツ銀行などがロシア事業の撤退判断が遅れたことが強い批判にさらされた。産業界からは「ロシアで事業を継続すること自体が企業にとって大きなリスクになっている」との声があがる。
ロシアから外資系企業の撤退が相次げば、ロシアの消費者の不満は高まり、失業率の増加など社会不安も招く恐れがある。
しかし、一連の強権的な姿勢がかえってロシアのカントリーリスクを意識させ、外資系企業をさらに遠ざける悪循環を生んでいる。
ウクライナ侵攻という「悪手」を選んだプーチン大統領だが、外資系企業のつなぎ止めでも失策を続けていると言っていいだろう。
(ジャーナリスト 白井俊郎)

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