子育てや仕事で悩む女性、障がい者、教育格差に苦しむ人などが生き生きと暮らし、活躍できる東京をつくる――。

そうした社会課題を独創性と機動力を持つスタートアップの力で解決するというプロジェクトを、東京都が2022年から実施している。

「Be Smart Tokyo(東京都スマートサービス実装促進プロジェクト)」がそれである。これまで8社を採択、社会実装の支援が行われている。その中間報告会が2025年11月12日、東京都内で行われた。

サービスを社会実装し東京都民、企業をよくする

運営するReGACY Innovation GroupのDirector・中村京介氏は、「サービスの社会実装を進めていき、都民や東京の企業をよくしていく」と意気込みを語ったあと、中間報告が行われた。主な活動を紹介しよう。

まず子育て支援プログラムでは、赤ちゃんの泣き声を判別するアプリ「あわベビ」。開発したのは、クロスメディスンの中井洸我代表取締役。徳島大学医学部を今年春に卒業したばかりだ。

このアプリの狙いは産後うつの予防である。中井氏によれば、「産後うつを患う人は世界で毎年約2300万人いて、約50%が必要な支援を受けられていない状態」という。日本では2020年のコロナ禍で産後1年未満の母親の4人に1人が産後うつの可能性があったとされる。

産後うつの原因はさまざまだが、中井氏は泣き声にフォーカスした。

何を要求しているのかわからず泣き止まないことが大きなストレスになる。産後うつは自殺や虐待、ネグレクトに繋がるのでやっかいだ。

そこで約14万のサンプルデータを学習させたAIが、録音した赤ちゃんの5秒間の泣き声を分析し、空腹、トイレ、眠い、痛いなどを推定し、対処法をアプリで提案する。現在、精度は約87%。泣き声の周波数などによって可愛い色と形の泡で表示したこともあり、「赤ちゃんとの時間を楽しめるようになった」などの反響があり、ユーザーは2万人を集めているという。

子どもと一緒に利用できる飲食店や施設、授乳室などがわからず困る子育て世代は多い。そうした悩みに応えるマッププラットフォーム「iiba」も面白い。

「iiba」は、全国にいる子育て世代の投稿をマップに連動させ、役立つ店舗情報などを探すことができる。全国に点在するiiba所属インフルエンサーの総フォロワー数は550万人にのぼる。一方で自治体の子育てマップのデジタル化を進め、さらに商業・観光施設などの事業者からに対して集客管理サービスを提供する事業も展開している。

2025年以降も「Be Smart Tokyo」を継続

障がい者支援としては「Asirase」がユニークだ。視覚障がい者が自由に1人で行きたい時に行きたい場所に行けるというコンセプトで、移動支援のナビゲーションデバイスを開発した。

靴に小型デバイスを取り付け、それとスマホアプリを連動させて誘導する。行きたい場所を設定すると、前に行くときは足の甲部分を、後方へは踵、右左折は足の側面をそれぞれ振動させる。Asirase取締役COO・香山由佳さんは、

「視覚障がいをもつ方は、最短距離で歩きたいわけではなく、慣れた道、段差が少ない、複雑な曲がり角がない道などを選ぶことが多いのです。そうした人にとっていいルートを推薦する独自技術を開発しました」

と語る。昨年(24年)から1年間で約700台以上が販売され、サブスク契約。満足度が高く、解約率が低いという。

現在、「Be Smart Tokyo」と進めているのはGPSが届かない屋内のナビゲーション。屋内でも楽しく買い物などを楽しめる試みだ。タッグを組むのは小田急百貨店新宿西口ハルク。店の前でQRコードを読み込み、それによって店内を巡る。その技術をもつスペインのスタートアップ企業と連携して進めているという。今年末からオーストラリア、来年には欧州(ドイツ)、アメリカにも営業をかける。

一方、認定NPO法人CLACKが事業を進めるのは、教育格差支援のプログラムである。支援対象は中高生。なかでも、貧困、不登校、発達障害などの困難を抱えている子どもたちだ。IT分野の学習やキャリアの伴走支援をし、将来自立・自走できるようにしていく。費用は無料だ。

ただ、いくらスキルはあっても仕事に結びつけるのはハードルが高い。そこで「Be Smart Tokyo」プログラムで展開するのは、CLACKが企業からITのサービス(たとえば、ホームページ制作、SNS代行、チラシ制作など)といった仕事を受託し、支援する子どもたちに仕事をしてもらい、責任をもって納品して収入を得るという形態だ。そうすれば、学習した成果を発揮することができる。企業側にとっては仕事を発注することが社会貢献になるという、CSRなどブランドイメージの構築につながるようになればと考えている。

イベントの最後、東京都デジタルサービス局デジタルサービス推進部スマートシティ推進担当課長の大井征史氏はこう挨拶した。

「もともと3年間の計画だった『Be Smart Tokyo』ですが、好評につき、本年度以降も継続します。本年度は『Be Smart Tokyo Inclusive』をテーマにしており、今後も困り事解決に力を注いでいきたい」

今後どんなスタートアップが現れるのか、楽しみだ。

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