公職選挙法は、原則として公職の候補者などが選挙区内のある者に対し、いかなる名義をもってするかを問わず、寄附することを禁止しています。原則として寄附が禁止されるのは、金のかかる選挙を防止し、選挙の公正を図るためです。そして、寄附とは「金銭、物品その他の財産上の利益の供与又は交付、その供与又は交付の約束で党費、会費その他債務の履行としてなされるもの以外のものをいう」と規定されています(179条2項)。
財産上の利益性を否定することはできない松島氏のうちわ配布が公職選挙法に違反するかどうかは、「うちわのような形をしている印刷物」が、「物品その他の財産上の利益」に該当するかどうかがポイントです。物品とは、金銭以外の有体物のことです。松島氏が配布した「印刷物」は、写真を見る限り柄と骨組みがあり、扇いで風を起こす機能を有していることから、これは一般的には「うちわ」と解される有体物です。
仮に物品に該当しないとしても、その他の財産上の利益に該当すると考えられます。その他の財産上の利益とは金銭、物品以外の有体、無体の財産上の利益のことをいい、客観的交換価値がなくても、受け取った側で財産上の価値があると考えるものも含むとされています。そうすると、松島氏も認めるとおり、配布物は「うちわ」として使用できるものですから、客観的交換価値が無いとまでは言えず、受け取った側は自宅などで、「うちわ」として使用し続けることもあり、財産上の利益性を否定することはできないでしょう。
公職選挙法違反にしないとする理由を見出すのは困難原価はそれほど高くありません。また、街角では広告を印刷した「うちわ」が無償配布されたりすることもあります。
また、街角の広告「うちわ」は、広告にうちわの機能を加味することで、受け取りを促進し、あるいは、すぐに捨てられないようにする目的をもって配布されているもので、うちわの機能ないし価値を利用するものといえます。
今回の「印刷物」が広告の「うちわ」と同じとの認識を松島氏が有していたなら、「印刷物」に「うちわ」としての価値を認めていたことにほかならないと解されます。結局、松島氏が配布した「印刷物」が、「物品その他の財産上の利益」に該当しないとする理由を見出すのは困難といえます。
(長谷川 武治/弁護士)