「昨年10月22日の『即位礼正殿の儀』のときも、私は宮さま方から呼ばれて宮殿に上がりました。妃殿下方のメークをさせていただき、片付けを終え、控え室に戻ったときは、まだ雨で。

ああ、今日は止まなかったと思っていたら、まさに儀式の開始間際、チチチチと鳥の鳴き声が聞こえてきたんです。窓に駆け寄って見上げたら、もう全部が青空になっていて。そうか、あれほどに豊かなお心持ちの方が集まったら、天気も変わるんだなぁと感動しながら、宮殿の中から祝砲の音を聞いておりました」

天皇陛下(60)が国内外に即位を宣言された一連の儀式の中でもハイライトといえる正殿の儀。秋篠宮紀子さま(53)はじめ、眞子さま(28)、佳子さま(25)らの妃殿下のメークを担当したのが、与儀育子さん(43)。港区虎ノ門のホテル、オークラ東京にある「与儀美容室」の3代目だ。終戦後、祖母の八重子さんの代に創業して72年。美智子さまは、独身時代からの顧客だった。

昭和天皇の弟にあたる三笠宮と結婚された百合子さまが通って以降、皇室とのご縁ができた与儀美容室。上皇陛下の姉君の池田厚子さん(88)のご成婚を始め、三笠宮家皇女の容子さまの裏千家への輿入れを担い、ますます評価を高めていく。もちろん一般の結婚式も、多い年には1,400件を超える人気だった。

そして時代も平成に変わった93年6月9日。今上陛下と皇后雅子さまのご成婚で、育子さんの母・みどりさんは、八重子さんとともに雅子さまのヘアメークを担当。

お相手と身近に触れ合う美容師ならではの“気づき”もあったという。それは、3代目の育子さんも感じたようだ。

前述の即位礼正殿の儀のときのこと。式の荘厳さに感動し、妃殿下方のメークをしながら、育子さんはこんな感慨にふけっていた。

「皇族の方たちの、利他の精神を改めて目の当たりにしました。メーク一つとっても、私などはもっと華やかになさっても素敵だと思うのですが、紀子さまは、いつも『自然で控えめに』とおっしゃいます。自分のことを華美に見せたいという思いはまったくなく、皇族としてどうあるべきかを常にお考えです。そのお気持ちこそが、妃殿下方の美しさのもとになっているのだと知りました」

そして、その精神は、若い世代の皇族方にも確実に受け継がれていると語る。

「眞子さまも、佳子さまも、ご公務の裏側では、お相手の国について事前に学ばれるなど、ご自分の時間を犠牲にしてまで準備をなさっていたり。ですから、お忙しい中でも、少しでも笑顔になっていただけるヘアメークはないかと日々考え、仕上げて差し上げます」

正殿の儀の朝、育子さんが皇居に向かうとき、母のみどりさんから手渡されたものがある。

「これは、私がおばあちゃまから受け継いだものだから、今日はあなたが身につけていきなさい」

それは、かつて八重子さんが、今は上皇后となられた美智子さまのお母さまからいただいたブローチだった。育子さんはいう。

「シルバー地のアール・デコ風のブローチです。宮殿では本当に一人でしたから、ときどき胸のブローチに手をやりながら、祖母や母に見守られているんだからと自分に言い聞かせて、無事に大役を果たすことができました」

女性の“美の源”から、自然な魅力を引き出すという大役を担った育子さん。美の職人たちの挑戦は、世代をつなぎながら続く。その仕事が、女性に元気と勇気を与えると信じて。

「女性自身」2020年3月10日号 掲載

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