医療従事者への先行接種がスタートした新型コロナウイルスワクチン。効果への期待と同時に、副反応を懸念する声もあるが、専門家の女性たちはどう見ているのだろう。
米国・ファイザー社製の新型コロナウイルスワクチンは、2月12日の第1便、2月21日の第2便に続き、3月1日に第3便の到着が予定されている。
「感染者数の拡大はピーク時よりは抑えられているものの、まだまだ予断を許さない状況が続いています。新型コロナウイルスの特効薬がない状況で、期待されているのがワクチンです」(医療関係者)
世界では欧米諸国を皮切りにすでにワクチン接種が始まっており、国内でも2月17日からワクチンの接種が開始された。
第1弾のワクチンは安全性調査に参加する医療従事者に先行接種を行い、次いで診療に関わる医療従事者、65歳以上の高齢者……と進めるのが政府の方針で、一般の人へのワクチン供給は夏以降になるとみられている。
日本で承認の申請がなされているワクチンは2種類。米国のファイザー社のほか、英国アストラゼネカ社が2月に厚生労働省に申請を提出している。
ワクチンに関する最大の関心事がその安全性、副反応だ。今回のワクチンでは、アナフィラキシー(急性アレルギー反応)が主な副反応として挙げられているが、そのほかにも倦怠感や発熱、体の痛みなどが報告されている。
欧米で行われているワクチン接種のデータには、ファイザー社製のワクチンで接種後に起こったアナフィラキシーは100万回に5件、アストラゼネカ社製では10万回に1~2件という統計がある。
副反応の7割は接種後15分以内に起こるという報告があるため、副反応に対する態勢を整えておけば、深刻な事態を防ぐことができると考えられている。
ワクチンについては、予防のために一刻も早く受けたいという肯定派と、年齢や抱えている疾患などの理由からしばらくは様子を見たいという慎重派の人とがいる。
実際に現場での診察に当たっている医師はどう考えているのだろう。今回本誌では、女医の先生方に《新型コロナウイルスワクチンを接種しますか?》というアンケートを実施した。日々接している医療現場の状況から寄せられた声は、とても貴重なものばかりだ。
さっそく結果についてみていこう。回答を寄せてくれた23人のうち、《接種する》と答えた医師が20人、《見送る》が3人となった。《接種する》といった肯定派のコメントでもっとも目立ったのは、《医療従事者という立場にいるから》という意見だった。
《多くの患者さんに接種することを考慮すると、自分がワクチンを接種して抗体を持ち、患者さんへの感染源にならないようにすることは、医者として必要なこと》(中山晴美先生、麻酔科・ペインクリニック)
《複数の高齢者施設と関わりがあり、自分が感染して施設に持ち込むことは避けねばならない》(岩井裕子先生、外科・消化器外科)
《現時点ではこのウイルスに対してワクチン以外に有効な治療薬はなく、この仕事をする限り、打たないという選択肢はない》(渡邊千寿子先生、耳鼻咽喉科)
このように、医療現場で感染を広げないためにワクチンを接種するといった意見が多く見られた。
■ビッグデータの協力になるためにも受ける
まずは自分が見本となって、打つ姿勢を見せたいというコメントも複数寄せられた。
《ワクチンを打つことで感染しづらくなるのと、症状がひどくならない可能性が上がるのでメリットのほうが大きいと考えているが、医療従事者としてまず先に打つことが、一般の方への安心にもつながると考えている》(廣瀬能華先生、美容皮膚科)
《現段階ではほかに手段がなく、医療従事者としてまず自分が接種してから患者にすすめるべきだと考えている》(おおたわ史絵先生、総合内科専門医)
個人的な視点だけでなく、社会的観点による意見も散見された。
《ワクチン接種することで集団免疫を獲得しないと新型コロナウイルスの蔓延は終わらない》(竹内聡美先生、呼吸器内科)
《新型コロナウイルスによって社会活動が制限されている現在、しない理由がない》(濱木珠恵先生、内科・血液内科)
《未知のワクチンだが、副作用が出るなら(自分が打って)その情報を公開する義務がある》(前出・渡邊先生)
《ビッグデータの協力になる》(井上留美子先生、整形外科)
肯定派のスタンスで、副反応について触れられたコメントを見ていくと、次のような意見が。
《ワクチンによる死亡はなく、新型コロナウイルスの死亡率が多い》(本田まりこ先生、皮膚科)
《すでに海外で報告されている副反応、アナフィラキシーショックの確率は小さく、治療可能だと考える。接種しないリスクのほうが大きい》(山口トキコ先生、肛門科)
《有効性が高いデータが出ているし、副反応も許容範囲》(板根みち子先生、循環器内科)
このように、接種に対する前向きな意見が多いが、今回のワクチンで議論になる理由の一つに、製法がある。
世界ですでに接種されているファイザー社製とモデルナ社製のワクチンはmRNAワクチン、アストラゼネカ社のワクチンはウイルスベクターワクチンと呼ばれる“遺伝子ワクチン”だ。
総合内科専門医のおおたわ史絵先生は次のように説明する。
「従来のワクチンは、ウイルスの抗原の一部分に近いものを弱毒化させて体内に入れる『弱毒性ワクチン』や『不活化ワクチン』ですが、今回のコロナワクチンは、ウイルスに対する抗体を作るための核酸を体内に入れ、それが体内でDNAやRNA遺伝子を複製させるというまったく新しい作り方をとっています。そのため、長期的な副反応などが未知数という側面があるのも事実です。新しいものに対して不安を抱くのは、人間として当然のことでしょう」
医療法人康梓会Y’sサイエンスクリニック広尾の日比野佐和子先生も、人々が不安になることを理解しつつ、ワクチン研究が“現在進行形”であることを強調する。
「これまでのワクチン開発とは異なり、史上最大規模の財政的・人的資源の投入がごく短期間で行われているのが今回のワクチン開発の特徴です。つまり、副反応を含めたワクチンのデータもものすごい勢いで蓄積されていますから、さまざまなことが見えてくるスピードも別格なのです」
ただし、海外でもワクチンの接種が始まったのは、ほんの1~2カ月前のこと。まだまだ未知である副反応に対する不安は、先生たちの反応からもうかがえる。
《コロナ感染が流行しているなか、乳がん発生も減少せず続いている。医療者として、がん治療をきちんと行うためにも、ワクチンの短長期的な影響について不安がないとはいえないが、打つ》(土井卓子先生、乳腺専門医)
《短期間で開発され、長期的なリスクについては不明なワクチン接種にまったく不安がないわけではないが、幸い自分には特に強いアレルギーがない(ため打つ)》(亀井倫子先生、ペインクリニック内科)
一方、ワクチン接種を《見送る》と答えた慎重派の先生たちからは次のような意見があった。
《新型コロナはインフルエンザよりもはるかに死亡率、罹患率が低い疾患。
《ワクチンを打つことによるベネフィット(利益)とリスク(不利益)を天秤にかけて十分に検討する必要がある》(正木稔子先生、耳鼻咽喉科専門医)
《従来のワクチンの製法とは異なる遺伝子型ワクチンで、副反応がわかっていないという段階で使用を開始するのは危険。ワクチンを打つ前に必ず副反応を調べる必要がある》(星子尚美先生、内科)
いずれも、今回のワクチンが異例の状況下で、短期間で開発されたことに対する懸念だ。
■詳細な情報提供が十分にできないと悩む医師も
「医師がワクチンに関して基本知識として知っているのは、生ワクチンと不活化ワクチンで、新型コロナウイルスのワクチンはどちらにも属していません。そのため、詳細な情報提供が十分にされていないのが現状です。何かが起こる可能性や、何が起こるのか、その程度や割合など、何も知らされていない状態で接種するのには同意できません」(正木先生)
通常、ワクチンの開発には長い年月がかかる。しかし、新型コロナウイルスのワクチンは、その過程がわずか1年足らず、異例のスピードで認可されている。
「『ワクチンファクトブック』(米国研究製薬工業協会が発行しているワクチンの手引書)によると、ワクチンは治験を含め、開発に10年程度かかるものです。特に治験は安全性の確認作業で、通常、最も時間がかかる部分ですが、新型コロナウイルスのワクチンは、発見から1年たたずに治験まで済んでいるといいます。mRNAワクチン、DNAワクチンは人類に初めて使用するものなのに、この程度の治験で実施に踏み切ってよいのでしょうか」(正木先生)
検証期間については、次のような意見も寄せられた。
《これは、人類初の“遺伝子組み換えワクチン”で、通常なら数年~10年以上及ぶべき検証期間を省いた、安全性のまったく確認されていないワクチン。飛びつかなければならないほどの切迫性はまったくない》(前出・小林先生)
医療現場の専門家ですら、肯定的な意見と慎重な意見が出るコロナワクチン。
「中高年になると、糖尿病や高血圧など生活習慣病を抱える方が増えます。これはすなわち、新型コロナウイルスにかかったときの重症化のリスクが上がるということです。それも加味したうえで、ご自分がワクチンを接種するかどうかをよく考えていただきたいと思います」
かかりつけの医師に相談する人もいるだろうが、“100%効果的で安全だ”と断言することはどんな医師にもできないとおおたわ先生は話す。未知のウイルスとの戦いが一日も早く落ち着き、日常が戻ってくることを願うばかりだ。
「女性自身」2021年3月2日号 掲載