新型コロナウイルスの新規感染者が爆発的に増え続けている東京。当然、医療機関の病床は逼迫。
東京では、7月下旬以降、自宅療養中の容体急変による死者も相次いでいる。
自宅療養中に容体が急変し自ら救急搬送を要請、病院に搬送されたもののその日に亡くなった50代女性の例。軽症で自宅療養を続けていた基礎疾患のない30代男性が一人暮らしの自宅で亡くなっていた例。自宅療養中に倒れているのを同居家族が見つけ、その後死亡が確認された50代男性の例――。
「本当に、明日亡くなるんじゃないかという現実があります」
8月中旬本誌の取材に応じてくれたのは、東京都大田区で訪問診療を行っている、ひなた在宅クリニック山王の田代和馬院長。田代院長は、自身が診ている患者のなかに、いままさに危篤状態の人がいるという。
「その方は80代後半の男性です。ワクチンの1回目を打って、2回目の接種を待っている状態でした。8日前に発症してから、入院場所を調整していたんですが、なかなか見つからないうちに、昨日容体が急変しました。急変を保健所に知らせたら、手を挙げてくれる病院が今日出たのですが……」
そう言って、言葉を選びながら田代院長は続ける。
「なんというかな……。
この取材翌日、男性は“あまりに苦しいので入院したい”と意志を変更したというが、入院場所の調整は引き続き「厳しい状況」だという。
■「もう絶対的にマンパワーが足りない…」
自分の“最後”が近づいたときでも治療を受けることを諦めざるをえない悲惨な事態が、いま東京を襲っている――。
従来から在宅医療を専門にしている田代院長は、これまで自宅で最期を迎えることを選ぶ人の看取りもしてきた。ただ、同じ高齢の方が亡くなるにしても、新型コロナウイルスで亡くなるのとほかの原因で亡くなるのとでは、本人や家族の受け止め方は違うと感じているという。
「みなさんの話を聞いていると、たとえば、悪性腫瘍や性肺炎、または食事が食べられなくなってしまった状態で亡くなるのは受け入れられるけれど、新型コロナウイルスで亡くなるということは受け入れられない、という方が多いように感じています。“この国の無策のせいで……”という悔しさを感じる方が多いようで、心の整理が難しいようです」
自宅療養者の増加に伴い需要が高まる訪問診療だが、このまま感染者が増えれば、訪問診療にも限界が来てしまう可能性がある。
「もう絶対的にマンパワーが足りないです。まず医者。そして訪問してくれる看護師。
感染者が増えるなかで、田代院長は自身のコロナ禍に対する捉え方が、日々変化しているという。
「本来だったら入院すべき中等症患者を“家で診る”という現状に、少し前までは“病院で治療できないなら俺が治療する”なんて思っていました。でもいま思うと僕のおごりでしたね。いまは“こんな災害現場では、縁のあった患者でも僕らが治し切るというのは無理だ”と思っています。保健所から“在宅で深刻な状況の人がいるから診に行って”と言われて治療を始めるだけ。その後の経過観察は、保健所に戻さないともう無理なんです」
とにかく私たちにできることは、感染しないよう自分の身を守ることだ。誰にも命を諦めさせないために――。