自宅で亡くなる人が続出するなか、急がれるコロナ病床の確保。東京都と政府は全病院にコロナ患者の受け入れを要請したが、現場の医師はむしろ患者を集約すべきだという。

最前線からの緊急提言。

「8月23日、小池百合子都知事と田村憲久厚労大臣が共同会見し、都内すべての医療機関に対し、コロナ患者を最大限受け入れるよう要請しました。改正感染症法に基づいた要請で、従わない場合は名前を公表されることもあります」(医療ジャーナリスト)

新型コロナウイルスのデルタ株が猛威を振るい、東京都内では入院できぬまま、病状が悪化して自宅で死亡するケースが続発している。こうした背景から、コロナ病床の拡大はやむをえない措置と考える人は多いが、医療現場からは懸念の声も出ているという。

「コロナ患者を受け入れれば、通常の医療を縮小せざるをえません。その結果、コロナ以外の病気や、事故などでけがした人を救えなくなるのではないか、と心配する医療関係者は多いんです」(同前) いち早く専門外来を作り、多くのコロナ患者を受け入れてきた東京都杉並区の河北総合病院などを運営する河北医療財団理事長の河北博文さんはこう訴える。

「二次救急(入院治療や緊急手術を要する救急医療)を受け入れている病院でさえ、コロナ対応できるのはごく一部です。年間の救急搬送が200から300ほどの小規模の病院などに無理に押し付けても、デメリットのほうが大きいでしょう」

それは、コロナ患者を受け入れるために、ほかの医療を大きく犠牲にしなければならないためだ。

「河北総合病院のコビット外来では、患者急増により、43床あるコロナ専用病床を55床に増やします。コロナ専用病床を増やすには感染対策をしなければならない。12床増やすために、一般病床を38床減らさなければなりませんでした」

“人手”もかかる。

「通常医療の場合、患者対看護師の割合を7対1で行っていましたが、コロナ専用病床は4対1以上。

重症患者では、さらに手厚くしないといけません」

しかし、こうした対応ができるのは、河北総合病院には杉並区の中核病院たる設備と人が整っているためだ。「多くの民間病院では対応は難しい」と、都内でコロナ患者を受け入れている地域の中核病院の院長のAさんはこう指摘する。

「たとえば人工呼吸器も、エアロゾルが出ますので、換気設備が整った個室は最低限必要です。理想的には、室内の空気が外に漏れ出ない陰圧室(気圧が低くなる病室)がほしいところ。しかし、多くの病院ではそうした設備は整っていません。個室は荷物とベッドがギリギリ置けるくらいの広さで、古い病院では個室でもトイレは共同ということが多い。動線を分けるスペースもないので、コロナ病床のためにワンフロアをつぶすことになります」

コロナを受け入れる病院が抱えるのがクラスターのリスクだ。万全の感染対策をしていた河北総合病院でも、今年1月に見舞われた。

「職員と患者さん合わせ、約八十数名の感染者が出ました。約40日間、救急と新規の入院患者を受け入れることはできず、病院の機能がストップ。赤字額も6億5,000万円にのぼりました」(河北さん)

■分散は愚策…患者はむしろ集約すべき

医療ガバナンス研究所理事長で内科医の上昌広さんは、クラスターを防ぐためにも「すべての病院が一律でコロナ患者を受け入れるより、役割分担したうえで患者を集約するべきだ」と、考えている。

「感染症の基本は隔離。

都内の国立病院や、政府分科会の会長である尾身茂さんが理事長を務めるJCHO(地域医療機能推進機構)を合わせれば3,000近く病床がある。その半分でいい。完全にコロナ専門病院にして、それ以外の病気を周辺の病院で受け入れる態勢を作れば、現在の危機も、真冬の流行期にも対応できるはずです」(上さん)

河北さんも、集約化に賛成だ。

「いまアクティブにコロナに対応できている病院の駐車場に“野戦病院”をつくるべき。別棟なのでクラスターのリスクが激減するし、医師による管理や対応もしやすいので患者さんを救うことができる。そもそも行政には、一律受け入れ以前の問題として、『コロナには土、日もない』と伝えたい。抗体カクテル療法は効果があるのに、土、日に薬剤が届かない状況があるので、まず改善すべきです」

年間4,000台以上の救急車を受け入れてきた、東京都立川市の立川相互病院の副院長・山田秀樹さんは、オリンピックを強行することで人々からコロナに対する警戒感を奪い、貴重な医療資源を割いてきた行政に強い不信感をもってきた。

「現在、行われているパラリンピックにも270人もの医療スタッフが投入されています。一つの病院ができるほどの人員なので、納得できない思いです」

国や都はコロナと闘う最前線の声に耳を傾けるべきだ。

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