「人生のピンチはチャンスです。私なんか、結婚後はずっとピンチの連続。
自身の生きざまを本誌記者に熱く語るのは、東京・浅草の老舗そば店「十和田」の四代目おかみ・冨永照子さん(84)。彼女は’78年に「2階建てロンドンバス」の日本初導入を皮切りに、’81年には「浅草サンバカーニバル」の開催、’86年に複合施設「浅草ROX」の開業などにも道筋を付けた“浅草の伝説のおかみ”として知られる。
今では信じられないが、先の東京五輪(’64年)後、浅草はゴーストタウン化し、瀕死の状態だった時期があった。そこで冨永さんが立ち上がり、浅草おかみさん会を発足。その後半世紀以上にわたり、浅草の活性化と町おこしに尽力してきた。
冨永さんの周りには、その人柄を慕ってたくさんの人たちが集まってくる。歌舞伎役者の市川猿之助、市川中車(香川照之)、尾上松也らをはじめ、萩本欽一、東MAX(東貴博)といった多くの芸能人からも信頼されているのだ。
「私のモットーは、“勇気、やる気、元気”。この言葉をいつも口にしています。前向きに生きていけば必ずいいことが起きる。
そう語る伝説のおかみ・冨永さんに、毎日をイキイキと過ごすための金言を語ってもらった。
■人に愛されたいなら、悪口は聞こえるように言う!
《さようならの後のはじめましてを見つければいい》
「人生の中で、どうしても自分と合わない人っているでしょ? そういう人とは無理に付き合う必要はないの。お釈迦様だって『縁なき衆生は度し難し』って言ってる。こっちが気を使っているのに、その思いをわかってくれない人って、これまでいっぱいいましたよ。そんな人は、“ハイ、さよなら”でいい。そして次の“はじめまして”を見つけりゃいい。そうすると人付き合いがずっと楽になるから」
《3人いればなんとかなる》
「何か新たに物事を動かすときは、自分以外に2人の信頼できる人間と一緒にやったほうがいいね。1人だけじゃ何もできない。かといって大人数だと、今度は話がまとまりにくくなる。それぞれが意見を言い合える3人ぐらいがちょうどいい。仮に2人の意見がぶつかっても、もう1人が調整役になるしね。そういう三角形を作れば、支え合えるし、関係性も崩れないものよ」
《悪口は聞こえるように。
「グチグチと陰口を言うのは、卑怯で汚ない。悪口は聞こえなきゃ面白くないじゃない(笑)。ホントはみんなに聞こえるように言いたいでしょ? 昔、イベントのスポンサーに寄付をお願いしたら断られたことがあってね。その人の悪口をお店に来てくれた中内㓛さん(ダイエーの創業者)に、散々言い立てたことがあるの。翌日、その悪口がよっぽど面白かったのか、中内さんから30万円とお肉が届いた。堂々と悪口を言ったらご祝儀がもらえるなんて……。そのときの教訓から“悪口は聞こえるように言う。陰口は言わない”と決めました(笑)」
《小さなおせっかいをコツコツ》
「人の面倒を見るって、そう簡単にはできない。責任が発生することもあるから。特にお金がかかるような面倒だと難しいことが多い。だから私は、ふだんから小さなおせっかいを焼くようにしている。尾上松也の浅草歌舞伎のチケットを買ったりとか、芸人さんの公演のチラシを店に置くとかね。
■お金に愛されたいなら、感謝は前払い!
《感謝は前払い》
「自分で何の努力もせずに、何でもかんでも人にお願いばかりする人っているでしょ? それでうまくやってもらったら、当たり前のように“ありがとう”のひと言。でも“ありがとう”って言葉は、口先だけだったら誰でも言えるからね。そんな人から感謝されても気分はよくないでしょ。施されてからでは遅い。順序が逆なの。私は商人だから、常日頃から相手に対して“ありがとう”の気持ちを持ってないとダメだと思ってる。だから“感謝は、寝ても覚めても前払い”が鉄則。先に感謝の気持ちを表すことが大事。感謝の前払いは、戻りも大きいから(笑)」
《身の丈に合わないものは無理して持たない》
「人間って、ふとしたことで金持ちになったって、途端にロクなことがない。たまたま商売が当たって、調子に乗って事業をどんどん拡大したのはいいけど、結局破綻したって話を山ほど知ってるわ。調子のいいときには、いろんな人間が近寄ってくるからね。
《人に施さないと死に際もよくない》
「ケチほどお金を持ってるって言うでしょ? 使わないから。私なんかは、お金を持ってなくても本当に困っている人がいたらあげちゃうの。江戸っ子だからね。でも、お金があるのに誰にも貸さない、誰にもあげない、自分だけはぜいたくをする、っていう人もいる。
■「チャンスに愛され」たいなら、年をとるほど好奇心を増やせ!
《失敗して反省したら、反省した自分をほめる》
「何かに挑戦して成功するときもあれば、失敗するときもある。失敗したら挫折ってことにもなるけど、何が失敗の原因だったかを深く考えてみることが大事だね。そこで反省できたら、次に必ず自分をほめてあげること。“失敗したけど、挑戦したことは次に進むための糧になった、偉いぞ!”と。以前、浅草六区のど真ん中に高級マンションの建設計画があって、おかみさん会で反対運動をしたことがあるんです。当時の区長とケンカしてね……。でも負けちゃった。大きな挫折だったけど、自分の至らなさや甘さを受け入れて反省して、その後の浅草の活性化と町おこしにつなげることができた。
《年をとるほど好奇心は増やせ》
「最近、年のせいか、声が出づらくなって詩吟を始めたんです。まぁ詩吟に限らず、何か習い事を始めると、新しい仲間もできる。そこで仲よくなったら店にも飲みに来てくれるしね(笑)。だから、年をとったからって、家に引っ込んでいることはないの。今はコロナでなかなか難しいけれど、旦那や彼氏と旅行に行くとか、とにかく外に出てあっちこっち歩いてみることだね。犬も歩けば棒に当たるって言うけど、何でも行動したもん勝ち。年なんて関係ない。好奇心さえあれば、何か拾いものが見つかる」
《「私なんか……」は禁句!》
「女の人で、お願い事をされたら“私なんか……”と、断る人がいるでしょ? これは禁句です。謙虚そうに口先だけで、この言葉をよく使う人は、ホンネとは違う人が多いからすぐわかる。そういう人は、まわりから相手にされなくなるから気をつけたほうがいいね」
御年84。ますます元気いっぱいの冨永さんだが、このコロナ禍で、浅草は再び危機的状況に直面している、と嘆く。
「仲見世の多くのお店も閉めていますからね。お祭りもイベントもできない。’64年の東京五輪後のときよりもひどい状況です」
だが、冨永さんは決して下を向くことはない。
「後ろを向いていてもしょうがない。だから前向きにコロナ後にやるべきことを一生懸命に考えてるよ。そうすれば、必ず明るい光が見えてくる。今はそう信じて、おかみさん会のみんなと浅草を元気にするために頑張っていきます!」
“伝説のおかみ”のバイタリティを見習って、私たちも毎日をイキイキと過ごしていこう!