人生100年時代を迎えた現在では、50歳はまだまだ折返し地点。残りの人生を心身ともに健やかに生きるためには、このあたりで一度、人生の「これまで」と「これから」を整理してみる必要がありそうだ。

「ある調査では60代の40%が『終活を始めたい』と思っているそうですが、実際に行動に移せている人は多くありません。それは、やることが多すぎて、どこから手をつけていいかわからないから。また、『終活』というと『エンディングノートをつける』『自分の財産を処分する』など、なんだか“人生の幕引き”というネガティブな印象があることもその理由かもしれません。ですが、じつは『終活』は、人生を最期まで自分らしく生きるためのポジティブな活動なのです。ほんとうに必要なモノ、やりたいことを取捨選択することで、これからの人生をより豊かにする。そのための『人生整理』だと考えてみてはいかがでしょう」

そう語るのは、生前整理普及協会代表理事の大津たまみさん。大津さんは、30年以上、片付けのプロとして1万件以上の現場で片付けや清掃法を指導してきた。

「人生整理」を始めるベストなタイミングは、夫の定年時や子どもの独立時。年齢に応じて順番に手をつけるとはかどるという。

ふだんの家の掃除や片付けと「人生整理」の違いは、“思い出”も、しっかりと片付けること。

「思い出の品を手に取ってみると、じつは興味があったことや、これまでにやり残していたことに、あらためて気がつくもの。そういう意味では『人生整理』はこれからの人生でやりたいことを考えるきっかけにもなります。

年を重ねると記憶力も体力も落ち、自分で管理できる範囲が限られてくるので、早ければ早いほどよく、遅くても50代のうちから始めてみましょう。また、自分で片付けられなくなってしまうと、家中に足の踏み場がないほどモノがあふれ、転倒骨折の危険も出てきます。そうした観点からも、元気なうちに不要品を処分し、安全に過ごせる空間を作っておくことが大切になってきます」(大津さん・以下同)

50~60代は体力があるうちにしかできないことを済ませておきたい。まず捨てるモノでいえば、小物が飾ってあるだけの棚や、洋服を処分すれば不要になるたんす。今のうちに粗大ゴミに出しておき、シンプルな暮らしを心がけよう。

■捨てるモノ

【家具などの不要品】

体力のあるうちに家具類を捨てておくと、将来、介護施設に入るときなど、楽になる。思い出の写真はアルバム1冊ぐらいにまとめておこう。

【形だけのお付き合い】

大切な人をリストアップして人間関係を見つめ直そう。年賀状も関係の薄い人には出すのをやめて、少しずつ整理していこう。

【やりたいことの「心残り」】

やり残したことをそのままにしておくと「後悔」に変わるという。行きたい場所に優先順位をつけて、元気なうちに行動に移そう。

【高額な死亡保険】

子どもがすでに独立しているのであれば、死亡保険も必要ない。

毎月支払う保険料はもったいないので、その分貯蓄にまわしておこう。

「時間をかけて整理したいのは、プリント写真。家族旅行の思い出が詰まっているので捨てられず、段ボール箱にしまったままではありませんか? 放置しておくと、子どもたちが処分することになるので、引き継いでもらうアルバムは1冊程度にまとめておき、自分の写真は元気なうちに自分で処分しておきましょう」

気持ちの整理も先延ばしにしない。疎遠な友人に年賀状を送るのをやめるなど、「仲のいい友達」をリストアップしておくと、「葬儀のときに来てもらいたい人」として、そのままエンディングノートにも書き残せる。

そして、「やっておけばよかった」という心残りも“処分”しておきたいもののひとつ。後悔を残さないためにも、行っておきたい場所や会っておきたい人などをリストアップし、ひとつひとつつぶしていこう。

また、子どもが巣立った後では不要になる生命保険もあるので、忘れずに見直しを。

■残すモノ

【大切な人へのメッセージ】

夫や子どもたちなど身近な人を大切に。感謝を伝えると自分にも大きな変化が起きてくる。

【家系図】

時間があるときこそ祖父や祖母の代までさかのぼり、ルーツを調べて自分史を書いてみよう。家系図がわかると相続のときにも役立つ。

【とりあえずのための「現金」】

急な入院時は、家族が保証金や入院費の支払いなどを行わなくてはならないが、その際、50万円程度の現金が手元にあると手続きもスムーズに。

【「万が一ファイル」】

とりあえずのための「現金」とともに、自分が倒れたときなどを想定して、家族が手続きに必要となる情報を1冊のファイルにまとめておこう。

〈「万が一ファイル」に記載しておく情報〉

・口座番号、金融資産、不動産、有価証券、負債など

・デジタル情報(ID、パスワード)

・公共料金、新聞、各種サブスク、クレジットカードなど(引き落としを停止してほしいもの)
・入院時の保証人、緊急時連絡先、保険の請求先など

「手続きをしてもらう子どもにファイルの置き場所を伝えておくと探す手間が省けます」

残すモノについてポイントになるのが、この年代で多くの人が経験する「親の看取り」。ちょっと気が早いようだが、このタイミングで自分が看取られるときのことを想像してみれば、残すべきモノもおのずと見えてくる。

「高齢になると判断能力が低下してくるので、どんな介護を受けたいのか、終末期の延命治療をどうするか、といったことも含めて考えておきましょう。自分が死んだ後の献体やお墓の扱いについても、できればお子さんたちと話し合っておきたいですね。70代、80代になって気持ちが変わったら変えてもいいのです」

そして何よりこの年代から残しておきたいのが「相続」のための情報だ。

「家系図を作っておくと、自分のルーツをたどれるだけでなく相続のときにも役立ちます。あと、必ず残しておきたいのが、『万が一ファイル』と、とりあえずの現金でしょうか。入院時の保証人や死後の手続きをお願いする人、メインバンクの情報だけでなく、契約を止めてもらいたいガスや電気、スマホ、クレジットカードなどの情報をまとめておくといいでしょう」

後で定期的に見直せばいいので、とりあえず作成しておこう。

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