輸入品のアサリが「熊本県産」として販売されていた事件は、消費者に大きなショックを与えた。しかし、「国内産」のイメージが独り歩きしている例は、このほかにもあるようでーー。

「今回の産地偽装では、中国産のアサリが山口県下関市の税関を通して国内に入り、熊本県内を経由しないまま市場に出て『熊本県産』として全国で販売されていました。極めて悪質なケースです」

そう語るのは、『図解 飲食店の衛生管理』(日本実業出版)の著書がある食品安全教育研究所代表の河岸宏和さん。

2月1日、農林水産省は、昨年10月からの3カ月間に全国で販売されていたアサリの産地表示の調査結果を発表した。

全国の小売店で販売されていたアサリの約8割にあたる2,485トンが「熊本県産」と表記されていたが、これをDNA分析したところ「外国産のアサリが混入している可能性が高い」という判定結果に。中国産のアサリが「国内産」として大量に流通している実態が明らかにーー。

さらに長年にわたり「熊本県産」と偽って販売されていた疑惑も浮上した。河岸さんが語る。

「国内産の需要の多さに目をつけ、安い中国産を『国産』と偽って高く売り、利ざやを稼ごうとしたこの行為は、“できることなら国産がいい”という消費者心理に付け込んだもの。これまでも知らないうちに、中国産のアサリを国内産と信じて食べていた可能性があるのです」

産地の偽装といえば「新潟産コシヒカリ」や「松阪牛」など“ブランドもの”の産地を偽って販売するという事例が多かったがーー。

「ブランド化しているということは、味や風味がほかの産地の食材と十分に差別化できています。そのため産地偽装をされても、食べればすぐにバレてしまうため、発覚することも少なくありませんでした。しかし、アサリを食べて国内産かどうかを判別するのはとても困難でしょう」

■外食や加工食品では産地はわからない

国産アサリの漁獲量は年4,305トン。

農林水産省の調査結果をみると、全国の小売店での販売数量は年間1万2,000トンほどになる。足りない分は輸入に頼ることに。総輸入量3万6,109トンのうち中国産アサリは2万6,000トンを占めている。

ちなみに3月3日のひな祭りに食されるお吸い物のハマグリも、国内の生産量を輸入量が大きく上回っており、その9割を中国産が占める。

「みそ汁をはじめ、和食に用いられるイメージが強い食材でも、国産だけではとうてい需要を賄いきれていない。実際は外国産がほとんどを占める食材は少なくありません」(河岸さん)

悪質な偽装がされていなければ、単一の食材は店頭で産地表示をしっかりチェックすることができる。

だが、産地表示がない外食や加工品となるとお手上げかもしれない。高原の有名観光地での体験を語るのは都内在住のA子さんだ。

「観光客でにぎわうおそば屋さんで山菜そばを食べたのですが、後から地元の人に、その店で使っているそば粉も山菜に使われている水煮のわらびやぜんまいもすべて中国産だと教えられてガッカリしたことがあります。別に国内産だとうたっていたわけではないのですが。帰りに土産店で梅干しを買いましたが、産地表示を見たら原材料の梅が中国産とあって……」

旅先で郷土料理、ご当地メニューなどを見かければ、それには地のものが用いられていると考えてしまいがち。だがA子さんの例にある山菜は、生産量自体が少ないうえ、収穫される期間も極めて短い。

そのため、国産を口にできる機会はそう多くないようだ。

最後に河岸所長がこう語る。

「アサリは、2カ所以上で育てられた場合、期間が長いほうを食品表示の『産地』にすることが可能です。たとえ中国で生まれたアサリでも、日本で養った期間のほうが少しでも長ければ国産品となるなど、とてもいいかげんです。さらにいえば、食品表示で生産地を示す基準は野菜、魚、肉などそれぞれバラバラです」

今回のアサリの産地偽装の事件を受け、生産地の基準を見直す動きも出始めている。

「産地偽装による混乱を繰り返さないためにも、産地表示のルールを厳格にし、消費者にもわかりやすい仕組みを作る必要があるでしょう」(河岸さん)

長期スパンでは低下傾向にある日本の食物自給率。私たち選ぶ側も、きちんとした目を養う姿勢が求められているーー。

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