“春眠暁を覚えず”とはよく言ったもの。心地よい気候で、ぐっすりと眠れるこの時期。

しかし、昼寝のぐっすりが認知症のリスクを高める危険性があるという。医師に、正しい昼寝の方法を教わった。

「4月になってあたたかな日が続き、午後、ついウトウトしてしまうことがありませんか。実は先月、昼寝と認知症との関連を示した気になる論文が、米国のアルツハイマー協会の雑誌『Alzheimer’s & Dementia』に掲載されました。今回、大規模調査をしたハーバード大学医学部や、関連病院のブリガム・アンド・ウィメンズ病院などによると、1日あたりの昼寝時間が1時間以上の人は、1時間未満の人に比べ、アルツハイマー型認知症(以下、認知症)になるリスクが1.4倍になるというのです」

こう語るのは、米国在住の内科医・大西睦子さんだ。米国のニュースチャンネル、CNNで大きく報じられるほど話題となった研究は’05年からスタートしたという。

「睡眠などの生活状況を記録できる腕時計型のセンサーを導入した、14年にわたる大掛かりな追跡調査です。研究対象者は、平均年齢81.4歳の高齢者1,401人で、約76%にあたる1,065人が女性。最終的に集まった被験者1,203人分のデータを解析しました」

研究開始時に認知機能が正常だったものの、その後、認知症を発症した被験者の生活習慣を調べたところ、冒頭のような特徴があらわれたのだ。

長時間昼寝をすると夜眠れなくなって認知症リスクを上げるのではないかとも考えられるが、今回の研究では夜間の睡眠時間と認知症発症リスクの増加は無関係だった。

また、認知症患者では病気が進むにつれ、毎年昼寝の時間が増加することも明らかに。論文の著者は、長時間の昼寝と認知症の関係を「悪循環」と指摘している。

■30分以内の昼寝には認知症予防の効果も

一方で、一定時間内の昼寝は、認知機能の低下リスクを下げるという興味深い研究結果も。昨年8月に論文を発表した、新潟大学大学院医歯学総合研究科環境予防医学分野の中村和利さんが解説する。

「新潟県に住む65歳以上の高齢者で、認知機能に問題がなかった約500人を5年間追跡調査しました。最終的にデータが出そろった389人のうち、106人に認知機能の低下が認められました。性別や喫煙、飲酒、基礎疾患などの影響を除いたところ、30分未満の昼寝習慣がある人は、昼寝習慣のない人などと比べて、認知機能の低下が起こりにくかったのです。因果関係は未解明ですが、動物実験では、短時間の睡眠によって、認知症の原因となる脳内のアミロイドβが除去されたという研究結果もあります」

認知症のリスクを考慮すると、習慣的に昼寝をする場合1時間以上は危険、30分以内なら安全、ということになりそうだ。

さらに30分以内の昼寝は、認知症予防だけでなく午後のパフォーマンス向上にもつながるという。

「私も毎日、午前と午後の診療の合間に20分ほど昼寝をします」

そう語るのは『阪野クリニック』(岐阜県)院長で、日本睡眠学会認定医の阪野勝久さんだ。

「近年はスマホやタブレットをベッドに持ち込み、眠る直前まで強い光を見ることで、睡眠の質が落ちたり、睡眠不足になる人も多いです。本来、必要な睡眠時間より20分、30分足りなくなった状態が2週間ほど続くと“睡眠負債”がたまってしまい、集中力を欠いたり、いつも眠かったり、抑うつ状態になってイライラしたりします。そんな睡眠負債を“返済”するためにも、昼寝は有効なのです」

■すっきり起きるコツは昼寝前のカフェイン

では、どのようにすれば“安全で効果的な昼寝”ができるのだろうか? 1つめのポイントは、昼寝のタイミングだ。

「血糖値が上がることによって、昼食後には睡魔が訪れます。

また、15時以降に昼寝をすると、夜の睡眠に影響が出て、生活リズムが崩れる原因に。昼寝は、昼食後の12時くらいから15時くらいまでに行うのがいいでしょう」

もちろん、この場合も“30分以内”が重要なポイントだ。睡眠にはレム睡眠とノンレム睡眠の2種類があり、眠りたては通常ノンレム睡眠から始まる。

「ノンレム睡眠は大まかにN1~N3の3段階に分けられ、ステージN1はウトウトとした眠りの浅い状態です。睡眠がはじまって数分でステージN2の状態になり、眠りが深くなりますが、実は覚醒もしやすくなります。この段階で起きることが重要です」

ノンレム睡眠のステップ2の段階が続くと交感神経の活動が休まるのだという。

「パソコンやスマホの画面を見ている時間が長い人は、脳だけでなく目も疲れます。午前中家事に追われている人は、体が緊張状態に。こうしてたまる疲労や緊張を、午後に一度リセットするためにも、昼寝は有効です。30分ほどの昼寝はリラックス効果や疲労の回復、その後の集中力の向上、仕事や家事の効率アップにつながると報告されています」

ただし、30分以上の昼寝は、逆効果になるので要注意。

「深い眠りから無理やり起きると、つらいし、睡眠慣性といって、倦怠感が生じたりぼんやりした状態が続いてしまいます。また、起床時に頭痛が引き起こされる場合もあるんです」

認知症リスクを低下させるためにも、起きた後元気に活動するためにも、昼寝は30分未満がよさそうだ。

では、どのように眠るのがよいのだろうか?

「睡眠を取る場所は、暗く静かなところがベストです。しかし、昼間にわざわざ布団を敷けない人も多いはず。アイマスクを利用して、ソファに横たわったり、リクライニングチェアに体を預けてもいいでしょう。リビングのテーブルに突っ伏す場合、体が痛くなるので枕を使ってください。飛行機で利用する、空気でふくらませる簡易枕も効果的だと思います」

その際、スマホなどでアラームを設定することも忘れずに。

「昼寝前にレギュラーコーヒーや紅茶を飲むなど、カフェインを摂取しておくのもいいでしょう。カフェインは体に吸収して20~30分ほどで覚醒効果が現れるので、30分後の快適な寝覚めを助けてくれるんです」

“昼寝=怠け者”という後ろめたさを感じる必要はなく、堂々と“30分”昼寝すべきなのだ。

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