“ジビエの生食”を提供する飲食店を紹介し、物議を醸した『坂上&指原のつぶれない店』(TBS系)。問題となったのは7月3日の放送回。
お笑いコンビ・U字工事と石原良純(60)の3人が店を訪問し、一品目に肉の表面をサッと焼いた「シカもも肉の刺身」を注文。提供されたのは、表面には火が通っているが内側はほぼ生の状態の切り身だった。その際、テロップには「鳥取の猟師から直接仕入れた新鮮なシカ肉」と映し出された
番組ではU字工事と石原がわさび醤油をつけて美味しそうに食べる姿が映し出されたが、ネット上では「危険なのでは?」「ジビエ生食は怖い」といった声が相次ぐ事態に。
ジビエは加熱が不十分だと食中毒を引き起こす恐れがあり、E型肝炎ウイルスや腸管出血性大腸菌といった感染リスクが高まるとされている。厚生労働省でも、ジビエについて次のように注意喚起している。
「生または加熱不十分な野生のシカ肉やイノシシ肉を食べると、E型肝炎ウイルス、腸管出血性大腸菌または寄生虫による食中毒のリスクがあります」
「ジビエは中心部まで火が通るようしっかり加熱して食べましょう。また、接触した器具の消毒など、取扱いには十分に注意してください」
しかし番組内では、視聴者に向けた健康リスクに関する案内がされることはなかった。そこで本誌がTBSに問い合わせると、6日に文書でこう回答があった。
「お店では加熱したうえで商品を提供していましたが、番組で、その説明が十分でなく、誤解を招く表現となってしまいました。関係者並びに視聴者の皆さまにお詫び申し上げます。HPで対応しています」
■今年5月には「イッテQ!」でもホタルイカが炎上
ジビエの件についてTBSは「誤解を招く表現」と釈明したが、このような“食をめぐる騒動”は他局でも起こっていた。
今年5月1日に放送された『世界の果てまでイッテQ!』(日本テレビ系)では、“ホタルイカを生で食べても問題ない”と視聴者を誤解させる描写があり批判が相次いだ。ホタルイカは生で食べることによって皮膚疾患や旋尾線虫症に感染するおそれがあり、富山県も注意喚起している。
「富山県に訪れた芸人が、ホタルイカの身投げの鑑賞と漁に挑戦する企画でした。夜の海岸に集まる人たちが映し出されると、『海岸に集まるホタルイカをすくい、獲れたてをその場で味わう』というテロップとナレーションが流れました。結局、ホタルイカは獲れなかったのですが、『獲れたてをその場で味わう』との表現によって“生で食べるつもりだったのでは?”と感じた視聴者も多かったようです」(テレビ誌ライター)
この時も本誌が日本テレビに取材すると、「番組ではホタルイカの専門家にアドバイスいただき、獲れた場合は加熱処理をして食べる予定でした。ご指摘の点については、HPで注意喚起しました」との回答が。そして番組公式サイトには、《ホタルイカを食べる場合は、加熱など適切な処理が必要ですので、ご注意ください》との一文が掲載されたのだった。
健康リスクのある食材をめぐって、注意喚起の欠落や誤認しうる表現によって炎上が相次ぐバラエティ番組。果たして、テレビ局側の“リテラシー”が不足していることが原因なのだろうか? 食を巡る炎上が相次ぐ背景や要因について、フードジャーナリストの山路力也氏に話を聞いた(以下、カッコ内は全て山路氏)。
■炎上の背景にある2つの要因
まず、「これには2つの側面があり、私は仕組みや構造の問題だと考えます」と前置きをした上で、山路氏はこう考察する。
「まず1つ目は、現代における“SNS社会”の構造的な問題です。テレビが1次情報だとして、番組を見た人がSNSに『これは危険なんじゃないか』と書き込む人が出てくるとします。
おそらく昔にも同じような番組はあったとは思います。ネットやSNSがない時代は、テレビ局へのクレームは電話がほとんどです。ですが1日に何本クレームが入ったかなど、世間には可視化されないわけですよね。そのような時代にも炎上騒動はあったかもしれませんが、現代のように拡散はされませんでした」
そして2つ目は、テレビ局側の体制に問題があるという。
「テレビ局だけでなく、制作会社も含めたチェック機能の問題だと思います。今回の件でいうと、食の世界では常識とされていることついて、ディレクターやプロデューサー、現場の人間が精通しているかといえばそうとは限りません。ですので、誤った情報の発信を防ぐためにもチェック機能が必要なんです。
例えば、歴史番組を制作するのであれば、制作側は時代考証の専門家を入れますよね。他にも料理をテーマとしたドラマなら、フードコーディネーターや料理人の技術指導が入ります。そのように精査することが情報番組やバラエティ番組に関しては、甘いのではないかと思います」
■「専門家や識者のチェック、それを取り入れようとする体制を作る姿勢が大事」
山路氏も情報番組やワイドショーで、食に関するコーナーに出演する機会がある。だが、“チェック機能”は自ら担っているといい、「番組側からチェックを求められるわけではないのですが、撮り方をアドバイスしたり、間違いを指摘することもあります。
加えて、番組制作の時間や人員が限られる“余裕のない制作環境”も要因にあるようだ。山路氏は、「情報番組やバラエティは制作する人員も限られていますし、沢山のモノを作らないといけません。1つ1つにじっくり取り組んだり、深掘りをしたりする時間がないわけですよね。制作や準備にかける時間が短くなっているということは、少なからずあると思います」と推察。
その上で、テレビ局に求められる対策をこう話す。
「情報番組やバラエティの場合は“1回放送したらそれで完結”といった向きもあるので、歴史番組やドラマほど専門家を入れようとする意識はないように思います。時間や人など制作条件は限られているとは思いますが、専門家や識者のチェック、それを取り入れようとする体制を作る姿勢が大事だと思います」
その一方で、「リテラシーはテレビ局だけが特別不足しているわけではない」と話す山路氏は、こうも警鐘を鳴らす。
「テレビに限らず、他者の情報を鵜呑みにすること自体が危険だと思います。テレビ側が正しいリテラシーを持つのも大切ですが、番組内容の受け取り方は人それぞれです。ですので『自分の身は自分で守る』という意識が大切なのではないでしょうか。今回炎上したのはテレビ局でしたが、場合によってはSNSやネット記事かもしれません。
情報に溢れる時代だからこそ、見極める力を養うことがより大切になっている。