「当院の救急受入れ態勢は100%です。医師は3交代勤務シフトとし、看護師・救急救命士とタスクシェアを行うシステムの構築を行っています。

さらに、ほかの診療科スタッフも救急医療を支える姿勢が強く、周辺の医療機関も協力してくれている。そうやってどんな患者さんもまずは受け入れる姿勢がとれているのです」

こう語るのは湘南鎌倉総合病院 救命救急センター(以下、湘南ER)の医師・関根一朗先生。同院は救急外来の受診者数/患者数が全国でもトップの総合病院。’21年度は1万8千26名の救急搬送を受け入れたが、今年は2万件を超える勢いだという。

専門外がなく、すべての初期治療ができるのがERの医師。なかでも日夜、多くの症例を経験している湘南ERの医師に、「呼吸困難で声が出ない」「熱中症で意識の状態が悪い」といった「命の緊急時」に、まずとるべき対処法を教わった。

■湘南ERが教える「命の緊急時」対処法

【呼吸困難】⇒まずは「声が出るか」の確認を!

「重症の場合が多く、緊急性の高い疾患として、気道の閉塞、心不全、肺炎などが挙げられます。一般的に上気道の異常は、気道が閉塞するリスクがあり、これは『声が出るか』で確認できるので、『声が出しづらい』『つばがのみ込めない』などの症状は、すぐ救急車を! 横にして寝かせると、症状が悪化する場合もありますので、背中にクッションなどを入れて床に座らせるなど、本人がいちばん楽な姿勢をとらせて、救急車を待ってください」(湘南ER・以下同)

<こんな時は病院へ>

□ 原則、病院を受診

<こんなときは救急車を>

□ 声が出づらい、つばがのみ込めない
□ 肩で呼吸をしている
□ 歩けない
□ 胸痛などの別の症状もある

【熱中症】⇒涼しい場所で休み、水分補給と冷却を!

「熱中症の症状は、軽症といわれるめまい・立ちくらみ・こむら返りなどから、中等症といわれる頭痛・吐き気・倦怠感・ぼーっとするなど多様。まずは涼しい場所で横になり、塩分の入った水分(経口補水液など)をとってから、体を冷やしてください。氷枕や保冷剤などで、首の両側、脇の下、脚のつけ根といった、太い血管がある場所に保冷剤などを当てるのは効果的です。症状が強くて動けない、意識の状態が悪い場合は重症が疑われますので、救急車を」

<こんな時は病院へ>

□ 処置をしても改善しない、悪化傾向

<こんなときは救急車を>

□ 症状が強く、動けない
□ 意識の状態が悪い

【アナフィラキシー】⇒呼吸や意識障害に注意

「皮膚・粘膜症状(発疹、かゆみ、むくみ)、呼吸器症状(息苦しさ、ゼーゼー、ヒューヒュー)、循環器症状(血圧低下、意識もうろう)、消化器症状(腹痛、嘔吐)のうち、2種類以上の症状が起きていると、アナフィラキシーと呼ばれる強いアレルギーの可能性があります。特に息が苦しかったり、意識がもうろうとしているときは、すぐ救急車を」

<こんな時は病院へ>

□ 全身の発疹、強いかゆみ、顔面や粘膜のむくみがある
□ 強い腹痛
□ 嘔吐

<こんなときは救急車を>

□ 顔面が蒼白
□ 冷や汗をかいている
□ 意識がもうろうとしている
□ 息が苦しく、声がかすれる(ゼーゼー、ヒューヒュー音がする)

【胸痛】⇒冷や汗を伴うような突然の痛みはすぐ病院へ!

「胸痛を起こす病気には心筋梗塞や大動脈解離など一刻を争うものもあります。

突然発症し、痛みが出現した瞬間のことを鮮明に覚えている場合は、すぐに病院へ。胸痛を訴えていた人が倒れたり、反応がなくなった場合は、すぐに救急車を呼び、可能であればAEDを使用してください」

<こんな時は病院へ>

□ 痛みがどんどん強くなる
□ 深呼吸で痛みが増す

<こんなときは救急車を>

□ 突然発症した
□ 冷や汗を伴う
□ 肩・あご・背中に広がるような痛みがある
□ 痛みが移動する、裂けるような痛みがある
□ 顔色が悪い
□ 意識を失った
□ 呼吸が苦しい
□ 締めつけられるような痛みが20分以上続く

【突然の頭痛】⇒痛みの始まりが明確にわかるようなら要注意

「とくに頭痛が始まった瞬間を明確に覚えていたり、今まで体験したことのない『人生最悪の痛み』に達する頭痛は精密検査を要する可能性が高い。たとえば『雷鳴様頭痛』と呼ばれるような強烈な痛みの場合は、救急車を呼びましょう」

<こんな時は病院へ>

□ 嘔吐した
□ 痛みが悪化している
□ ふだんと違う痛みを感じる

<こんなときは救急車を>

□ 意識を失った、意識の状態が悪い
□ 1分以内に人生最悪の痛みになった(「雷鳴様頭痛」という)

【脳卒中】⇒早期発見が大切

「脳卒中は発症してから早く病院に行くことで、治療の選択肢が増え、予後が変わります。以下の『FAST』でチェックして、あてはまる症状があれば、救急車で病院へ」

Face=顔のまひ(笑っても顔の片側だけ下がる、口角が下がる)
Arm=腕のまひ(両手を上げると片方だけ下がる、高さを維持できない)
Speech=言葉の障害(ろれつが回らない、言葉が理解できない、なかなか言葉が出てこない)
Time=時間(脳卒中は早期発見が重要。早ければ早いほど、治療の選択肢が広がる!)

ここ数年はコロナによる搬送も多く、湘南ERでは当然、コロナを想定した万全な受入れ態勢を敷いている。だが、それ以上に前出の関根先生が懸念しているのは、コロナにおびえるあまり、受診を控えてしまうこと。

「それによって命にかかわる疾患が見落とされてしまうかもしれません。今やコロナはどこにでも潜伏しているという認識で、病院はしっかりと対策をしています。ご自身が抱えている症状のために生活の質が下がった、ふだんの生活ができなくなっているというときは、病院を頼ってください」

実際、救急搬送されてから、もっと早くに来てくれていればというケースも少なくないそう。コロナ禍で、つい病院に行くのを恐れ、二の足を踏んでしまいそうになるが、今はほとんどの病院で対策が進んでいる。「命の緊急時」を未然に防ぐためにも、ふだんから病院を上手に利用しておこう。

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