「こんにゃくとか嬬恋村スキー場が思い浮かぶけれど、住むのには不便なんじゃない?」
「からっ風のイメージかな~、冬場は寒さが厳しそう……」
これらは、「群馬県と聞いて思い浮かぶことは?」との問いに、群馬県出身(または在住)ではない読者が回答してくれたもの。「報道機関や調査機関が毎年発表する『都道府県魅力度ランキング』では、群馬県は40~45位あたりの常連です。
ところが、そんな群馬県のイメージが覆されつつある。NTT(東京都)は8月8日、群馬県高崎市に「本社組織の分散拠点を設置」することを発表。さらに、ギョーザで有名な「大阪王将」ブランドの冷凍ギョーザを生産・販売するイートアンドフーズ(東京都)も、群馬県板倉町に第三工場を建設中(10月操業開始予定)というから驚きだ。国内従業員数18万人を誇るNTTグループのような有名企業が進出するということは、当然そこに勤務する社員やスタッフなど、群馬県に暮らす人が増えることになる。じつは群馬県は企業などの「移転・進出」だけでなく、生活者の「移住」先としても存在感を強めているのだという。
全国の住宅事情に詳しい住宅評論家の櫻井幸雄さんは次のように話す。
「群馬県は地盤が強固なので地震の揺れに強く、『海なし県』ですから津波は来ません。他県に比べても水害が少ないというデータもあります。そして上越・北陸新幹線が停車するJR高崎駅があり、東京駅まで出るのに1時間かからない。他県からの移住を考える人には注目の的となっているんです」
いま、群馬の“魅力”にスポットが当たりつつある。その詳細をひもとくために、さっそく、群馬県・地域創生部ぐんま暮らし・外国人活躍推進課の鈴木徹也さんを直撃。前出・櫻井さんの解説とともに、“移住先としての群馬県の魅力”に迫った。
【1】地震が少ない
消防庁『消防白書』の「自然災害による罹災世帯数」を見ると、過去10年で群馬県内で自然災害の被害を受けたのは464世帯。一方、東京都は3千292世帯、茨城県では3万7千7世帯と、桁違いの数となっている。日本で起こる自然災害としてまずイメージされるのが、大地震による被害だ。
「約100年の間で発生した震度4以上の地震回数が、近隣の都県に比べて圧倒的に少ないのが群馬県の特徴です」(鈴木さん)
近隣の都県を見てみると、東京都573回、茨城県384回、福島県355回などと、震度4以上の地震が100年あまりの間に数百回単位で起きているのがわかる。それに比べて、群馬県はわずか73回しか震度4以上の地震が発生していないのだ。
【2】水害リスクが低い
今年も多くの地域で深刻な水害が発生している。国土交通省の水害統計調査によれば、’11~’20年の10年間における水害被害額は、群馬県は約560億円。近隣の都県を見てみると、東京都で約994億円、栃木県に至っては約3千385億円にものぼる。近隣都県は群馬県に比べて、約2~6倍もの被害額となっていることがわかる。
「’20年に八ッ場ダムが運用開始したことも、県民の安心材料になっていると思います。
私たちの体感で言えば、たとえ台風が来ても、結果的に大きな被害を受けずに済むケースが多いという印象です」(鈴木さん)
大きな災害に遭うリスクが低いことは、企業だけでなく個人にとっても心強いこと。
「近年、各地で未曽有の大災害が多発しており、移住先を選ぶにあたっても“災害に強い”地域であることがより重視されるようになっています」(櫻井さん)
■災害面以外の魅力も…「物価が安いのに収入は高い」
【3】東京へのアクセスがよい
高崎駅から東京駅までは、新幹線で1時間かからない。
「移転の構想が浮上した理由は、自然災害の少なさ(前述)のほか、新幹線をはじめ交通アクセスのよさなどでした。 当時、その計画は実現しませんでしたが、30年以上の時を経て、そのメリットが再び脚光を浴び始めたともいえますね」
【4】県民所得水準が高い
内閣府の県民経済計算によれば、’18年度の群馬県民の1人当たりの所得は328万3千円。これは1人当たりの国民所得の319万8千円を上回り、全国第8位とベストテン入りを果たしている。
「東京を囲む関東地方に位置していて、企業の誘致が全県で進んでいることも、群馬県民の所得が高い要因として考えられると思います」(鈴木さん)
群馬県内にある主な有名企業は、自動車のSUBARU群馬製作所本工場(太田市スバル町)をはじめ、半導体のアドバンテスト群馬R&Dセンタ(邑楽郡)、家電販売のヤマダデンキ(高崎市)など。さらには、メガネのジンズ前橋本社(前橋市)、作業服のワークマン関東信越本部(伊勢崎市)など、多くを数える。
「大手企業にとっては、土地代が安いことでコスト削減が達成できて、同時に社員が東京に出張する際の交通費も安く済む。そのぶんが賃金アップに充てられることになります。
県内の所得水準が上がることは、自治体、企業、住民と全方向にメリットとなるといえるでしょう」(櫻井さん)
街全体がリッチになれば、行政サービスなどのさらなる充実にもつながることになる。
【5】とにかく物価が安い
所得が多い一方で、消費者が買う商品の価格変動を示す「消費者物価指数」においては、群馬県の地域差指数は96.6(全国平均を100とした場合)。これは全国46位、つまり「下から2番目」となるのだが……。
「この物価の安さと、県民所得の高さ(前述)が群馬県のユニークな特徴です。つまり『群馬暮らし』イコール『コスパ抜群』ともいえるでしょう」(櫻井さん) 止まらない値上げラッシュが家計を苦しめるなか、この特徴は大いに魅力的だ。
【6】全国に誇る温泉地がある
源泉数が県内458本を数え、草津、水上、伊香保、四万と「4大温泉地」でも知られる群馬県。
「特に女性の方にオススメしたいのが、さまざまな効能の温泉をハシゴする“重ね湯”の旅です」(鈴木さん)
【7】さまざまな食材がそろう
「高原野菜の栽培や養豚が盛んな群馬県は、魚以外はおいしい食材がいつでも安く食べられる環境といえるでしょう。このあたりが物価の安さ(前述)の一因かもしれません」(櫻井さん)
安心・安全で高コスパ。数多くの“新しい魅力”に支えられ、群馬県は「都道府県別・移住希望地ランキング」(ふるさと回帰支援センター’22年2月発表)において、前年の10位から過去最高の5位に躍進を遂げている。コロナ禍で私たちのライフスタイルも変化しつつあるなか、群馬県による“魅力度ランキング最下位争いからの大逆襲”は、今後さらに加速していきそうだ。