食料品や水道光熱費が爆上がりし続けるため、「家計がもたない」と頭を抱える人が急増している。

「子どもたちが無事に巣立ったのはいいのですが、夫の退職金で教育費と住宅ローンを支払い終えたら、貯蓄はスッカラカン。

夫は再雇用で60歳以降も働き続けるとはいえ、給料は現役時代よりも激減するので、老後資金を貯める余裕などありません……」

ため息をつくのは、都内に住む58歳の主婦。毎月の収入で生活費をまかなうのが精いっぱいで、“老後資金2000万円”を今から貯めるのはムリと白旗をあげている。

そんな老後を心配する50代たちに、「60代からでも遅くはありません。今すぐ少額からでいいので、つみたてNISAを始めたほうがいいですよ」とアドバイスするのは、積立投資に詳しいファイナンシャルプランナーの山口京子さん。

つみたてNISAとは、’18年からスタートした投資信託を対象にした非課税制度。通常、投資で出た利益に20%ほどの税金がかかるが、つみたてNISAには税金がかからない。しかも、日本で販売されている投資信託約6000本のうち、金融庁の基準を満たした“お墨付き”の215本(’22年8月18日)に絞られるので選びやすい。

積立額の上限は1年間で40万円まで。非課税となる期間は最長20年。口座開設できるのは1人1口座だが、20歳以上であれば何歳でも始められるうえ、いつでも売却や引き出しができるので、「投資がこわい」という初心者向け。

■つみたてNISAの改正にはどんなメリットがある?

8月下旬、金融庁が公表した「’23年度税制改正要望」に記載されたNISAの「恒久化」、「投資枠の拡大」といった改正ポイントに注目が集まった。

「つみたてNISAは、’42年末日までの期限が設けられていて、たとえば’25年からスタートしたら、18年間分しか非課税期間が使えないことになってしまいます。

これを撤廃して非課税期間を無制限にしよう、ということです。また、投資可能枠は年40万円までですが、資産形成しやすくするため、これを拡大させよう、という内容です」(山口さん・以下同)

金融庁の要望書には、特に金額までは提示されていないが、日本証券業協会が7月にまとめた提言で、上限額は年60万円と示している。仮にそのとおりになれば、月5万円の積立が可能になる計算だ。

【つみたてNISA制度改正の場合の変更点】

・投資可能期間:2042年まで → 恒久的
・非課税期間:20年間 → 無期限
・年間投資枠:40万円 → 60万円
・対象年齢:20歳以上 → 18歳以上

正式に決定するのは、年末の「税制改正大綱」と言われていて、それ以降、法改正となると、’24年ごろから改正版でのスタートとなるが、山口さんは、「’24年を待ってからよりも、今すぐ始めたほうがいい」という。

「長期間投資をするほど、買う口数が増えるからです。投資というと値動きに一喜一憂する株式投資のイメージが根強いのですが、投資信託は考え方が違います。元本割れのリスクはありますが、基準価格が上下するタイミングで売り買いするのではなく、1カ月に1度、一定額の積立を5年から10年以上など長期にわたって積み立てることで、損失を防ぐことができるのです」

投資信託の評価額は口数×価格で決まる。

たとえば、りんごの価格が1個100円のときに、1000円分買うと10個手に入れることができる。1カ月後、50円まで値が下がったら、20個、反対に200円だとすると5個、といったように変動する。

毎月一定額で購入し続けていると、価格が下がったときはたくさん買えるので、下落したとき=ラッキーとなる。また、買ったりんごの数は絶対に減らないので、長期間にわたって投資をすれば、りんごがどんどん増えるという計算になる。このりんごの数が投資信託でいう「口数」になる。

■積立額5万円、利回り5%で20年で2000万円超え

「毎月、収入から5万円の積立は大変ですが、ちょうど教育資金など子どもにかかるお金が減るタイミングでもあるので、普通預金や定期預金で眠っているお金にも大いに働いてもらいましょう」

金融庁のシミュレーションにもあるように、毎月5万円を5%の運用で20年間続けると、約2000万円になる。仮に夫婦2人で始めたら、2000万円は貯まるので、“老後資金2000万円”の問題も解消される。

「投資信託の種類がたくさんあるのはネット証券ですが、パソコンやスマホの操作に慣れていない人は、今普通口座を開いているメインバンクで口座を開設してみましょう。口座を開いたら月々の積立額を決めますが、ネット証券なら、数百円と少額からでも投資は可能です。まず少ない金額からスタートして、そのときの家計の状況によって積立額を増やしていく方法もあります」

初心者にとって難しいのは、投資信託の選び方。最終的に3%程度の利回りを目指すには、「全世界株式」の投資信託がよいという。

「積み立てている最中は、その時々の経済状況に一喜一憂しないで、“ほったらかし”でOKです」

■改正後はどうなる?“つみたてNISA”積立金額・利回り別試算

【毎月の積立額が3万円の場合】想定利回りが3%なら

〈5年なら元本180万円で〉積立額:193.9万円
〈10年なら元本360万円で〉積立額:419.2万円
〈15年なら元本540万円で〉積立額:680.9万円
〈20年なら元本720万円で〉積立額:984.9万円

【毎月の積立額が3万円の場合】想定利回りが5%なら

〈5年なら元本180万円で〉積立額:204万円
〈10年なら元本360万円で〉積立額:465.8万円
〈15年なら元本540万円で〉積立額:801.9万円
〈20年なら元本720万円で〉積立額:1233.1万円

【毎月の積立額が5万円の場合】想定利回りが3%なら

〈5年なら元本300万円で〉積立額:323.2万円
〈10年なら元本600万円で〉積立額:698.7万円
〈15年なら元本900万円で〉積立額:1134.9万円
〈20年なら元本1200万円で〉積立額:1641.5万円

【毎月の積立額が5万円の場合】想定利回りが5%なら

〈5年なら元本300万円で〉積立額:340万円
〈10年なら元本600万円で〉積立額:776.4万円
〈15年なら元本900万円で〉積立額:1336.4万円
〈20年なら元本1200万円で〉積立額:2055.2万円

まずは少額から貯蓄感覚でスタートして、手堅く増やして老後資金を貯めていこう!

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