世界からも注目される日本の民族使用「着物」。しかし今、ある着物を巡って、波紋が広がっている。
発端となったのは、東京・秋葉原に関する情報を発信しているブログサイト「秋葉原PLUS」のTwitterアカウントによる10月16日の投稿。
《UDXの下で100万円のお着物売ってたー!禰豆子ーー!(和)》という文章とともに、秋葉原の路上で、桃色の着物を販売している様子がおさめられた写真が。桃色の着物は漫画『鬼滅の刃』の竈門禰豆子が着ていたものも思わせる。実際にその着物を着用した女性の写真もあった。
しかし、女性の手には「秋葉ファンの願いを叶える」という言葉とともに「限定 100万円+税」と書かれたプレートが。どうやら、この着物は100万円もの値段が付けられているようだ。
別の画像では、着物に関しての説明書きも紹介されており、「加賀染めを未来に繋ぐプロジェクト」と大きく書いた上で、こう続いている。
「石川県の加賀地方で染めた『加賀染め』。今回お仕立てした着物は、加賀地方に伝わる伝統技法である板場友禅(型紙を用いた染色手法)を使い、歴史ある板場にて2色刷りの加賀染めとしてこしらえたものです」
「着物の柄には、日本の伝統柄の一つ、麻の葉文様を使用。帯には、同じく日本の伝統柄である市松文様をあしらいました。市松文様には色味に少し変化を施すことで、変り市松文様と致しました。ご自宅で洗えるよう、生地には河内木綿を使用しております」
秋葉原PLUSは先の投稿に続けて、販売者に聞いた上で、《生地は木綿で「河内木綿」 ぼかし等の技法が有名な加賀友禅ではなく「板場友禅」の技法を使った二色刷りの「加賀染め」 価格は「100万円+消費税」で、「この反物を着物にお仕立て」してくれるとのことでした。
一般的に高級品のイメージが強い着物。しかし、この一連の投稿に対しては、証紙がないなか、100万円という値段を打ち出しているためか、一部から“値段の正当性”を疑う声が飛び出した。
《手ぬぐい生地みたいに見えます。知識無いけど》
《100万払って、こんな見るからにペラペラでぐしゃぐしゃなお着物(というか浴衣?)とかあり得ない》
《100万もするような反物の端には必ず証紙が付いているのに全く無い》
《これ、海外からの観光客が間違って買ってしまったら嫌だなあ…》
■100万円は「一般的で妥当な値段だと捉えております」
そこで本誌は、この着物を販売している会社「ロゼッタワークス株式会社」に話を聞いた。担当者によると、「限定 100万円+税」と書かれたプレートを持った女性の写真は、投稿日と同じく10月16日に行われた「MIRAI ACTION AKIBA 2022」というイベントで撮影されたものだという。
そして本誌が「ネットで話題になっている着物は加賀染でしょうか」と伝えると、担当者はこう答えた。
「はい、加賀染です。ただ加賀染には、証紙などは発行されないんですね。加賀染というのは、加賀地方で染めた染め物という意味。非常に手の込んだものは加賀友禅という名前で売られたりしますが、今回弊社がお願いしたお品は2色刷り。『この程度では加賀友禅とは名乗れない』と板場の方で判断されまして、加賀染となっております」
担当者は「加賀染と名乗ることに、何の問題もありません」といい、こう続ける。
「以前も、この着物が話題になったことがあります。その時に加賀友禅染色協同組合に直接お電話した方がいらっしゃるんです。その際に協議があり、『加賀染と名乗ることに問題はない』となったんです。ですから弊社だけでなく、板場にとっても加賀友禅染色協同組合にとっても問題はありません」
とはいえ、100万円という値段は正当なのだろうか? この件について問うと、担当者は「まぁ、着物なんで(笑)」といい、こう話した。
「一般的で妥当な値段だと捉えております。他では手に入らない、特別な着物ですから。それに、着物の値付けはまちまちですよね。生地が薄いという声もあるそうですが、木綿ですから。そもそも生地の薄さと値段は関係ありません。『100万円でこんなに生地が薄いなんて』というのは、あまり着物に詳しくない方のコメントなのかなと思いますけどね。
不思議なお話ですよね。『フェラーリは高すぎる』といっても、それはフェラーリ社が値付けしたものですから(笑)。
■先着3名が100万円。それ以降は200万円
実はこの着物、昨年末に行われた『コミックマーケット99』では20万円で売られていたという指摘もネット上でされている。
「もともと、あの着物は私が個人の趣味で作ったものです。ですが“一着だけ作る”ということができなかったので、6反作りました。そこで『もしかしてコミケに行ったら欲しい方がいるんじゃないか』と思い、参加しました。
その際に仕立て代込みで、20万円で販売しました。でもはっきりいって、原価なんですね。というのが調べたところ、『コミケは利益を取ってはならない』と書いてあったので。
いっぽうで、その当時もネットで、今回のように話題になりました。すると社長が聞きつけて、『その着物は会社として売りましょう』となったんです。
改めて本誌が「それほど高級な加賀染めである、ということでしょうか」と“正当性“を尋ねると、担当者は頷いた。
「そうですね。帯がついて、仕立ても込みで。名前の刺繍も入れますし。それに採寸を行う場合、石川県までおいでいただけるのならば、採寸は加賀染めを実際作っている板場のかたにお願いできますよ」