新築の家が、車を1台買うような金額で、わずか24時間の工期で建つーー。

技術の革新がそんな住まいを可能にした。

その一歩は、住宅選びの常識を覆すことになるかもしれない。

10月24日、大手百貨店の髙島屋が来年正月、初売りの目玉企画として「Sphere(スフィア)3Dプリンターハウス福袋」を1棟販売すると発表し、話題を呼んでいる。

「ありがたいことに、大変多くの方に関心を持っていただいています。

来年春、発売予定である1LDKの『フジツボ モデル』を発表したあとは『欲しい、買いたい』という問い合わせは50~70代の方を中心に1000件以上です」

こう相好を崩すのは、日本初の3Dプリンター住宅メーカー「セレンディクス」のCOO(最高執行責任者)を務める飯田国大さん。

“世界最先端の家造り”を目標に掲げる同社は今年3月、日本第1号となる3Dプリンター住宅「Sphere」を完成させたのだ。

「3Dプリンターハウス」は11月4日に発表された「2023年ヒット予測ランキング」(『日経トレンディ』)で20位にランクイン。

驚くのはその工期の短さで、施工開始からたったの23時間12分で竣工してしまったのだ(基礎工事を除く)。

このSphereは、広さ10㎡の球体状で、インフラは電気設備のみ。

水道などの設備はついていないが、グランピング施設や趣味の部屋といった用途・目的で年内、すでに6棟の販売が決定している。

そしてーー。

「来年の春には電気、ガス、水道のインフラはもちろん、キッチン、バス、トイレも完備した49㎡、1LDKの『フジツボ モデル』の販売を目指しています。

こちらも施工時間は24時間以内、価格は500万円を予定しています」(飯田さん・以下同)

夫婦2人で暮らすには十分な本格的住宅が、そんな短時間&安価で手に入るなんて、そりゃ50~70代からの問い合わせが殺到するのもうなずける、夢のようなお話だ。

飯田さんは、開発に取り組んだきっかけについてこう力を込める。

「私たちは“住宅ローンのない社会”を実現したい、そう考えて開発を始めました。

いま、日本人の住宅ローンの平均完済年齢は73歳。でも住宅ローンを組める人はまだよくて、40%の人は一生、家を持てないと言われており、その数字は過去10年で約10ポイントも上がっています。

なかには、『ずっと賃貸でかまわない』と考える人もいると思いますが、60歳を過ぎると更新ができなくなるなど、家を借りられなくなる人も少なくないんです」

続けて、飯田さんはこう話す。

■なぜそんなに安く建てられるのか?

「終の棲家を見つけられない、といった社会課題を解決するためにも、車を買うぐらいの金額で、より多くの人に家を提供したいと考えています。

将来的には『100㎡、3LDKで300万円』を目標にしています」

そもそも、どうしてそんなに安く家が建てられるのか。

「施工時間の短さが重要なポイントです。通常、家を建てるのには半年ほどの時間を要します。つまり180日間、人間が現場に通い作業すれば、それだけの人件費がかかることに。 でも、3Dプリンター住宅は24時間施工を前提としているので、1日8時間作業としても、3日分の人件費で済む。そこがコストパフォーマンスに大きな差が出る要因です」

耐久性はどうなのだろうか。

特に、地震などの災害が多発傾向にある昨今の日本。

“安かろう悪かろう”な家では、おちおち暮らしてなどいられないのではないか……。

■世界一厳しい耐震基準もクリア

「素材はコンクリートに特殊な硬化剤などを混ぜたものです。

そのうえ、Sphereやフジツボ モデルはしっかりと鉄筋の入ったRC造ですから、普通に暮らせば70年は持ちます。

さらに、日本でトップクラスの構造設計の専門家にもプロジェクトに参加してもらっており、世界一厳しい日本の耐震基準もクリア。

データ上のシミュレーションでは震度7の揺れも大丈夫です」

電気&ガス料金が爆上がり中だけに、断熱性能も気になるところ。だが、これについても飯田さんはこう言って胸を張る。

「壁面を二重構造にすることで断熱性を高め、厳しいヨーロッパの断熱基準もクリアしています。

そのエネルギー効率の高さから、環境省からも、住宅の脱炭素化につながる技術開発として取り上げていただいています」

高いコストパフォーマンス、安心の耐久性、快適な断熱性と文句なしの3Dプリンター住宅だが、ウイークポイントは無いのだろうか。

1LDK500万円のフジツボ モデルも、将来開発を目指すという3LDK300万円というタイプも、いわゆる上物だけのお値段で、土地代は含まれていない。

その点を改めて問うと、飯田さんは笑顔で、しかし堂々と、主張を展開した。

「お客さまからもよく『家は安くなったとしても、土地が高いから意味がないじゃないか』という言葉をいただきます。

そこで、私たちからは『政令指定都市の中心部から所要時間90分の場所で暮らしませんか』という提案をしています。

社会のデジタル化が進み、リモートワークも定着してきて、通勤の必然性がなくなりつつあるいまなら、実現できる暮らし方だと思います」

実際、飯田さん自身も、福岡市の中心部から、大分県日田市の山里に移り住んだ1人だ。

「たとえば100㎡の土地は東京都心だと5億円ぐらいしますよね。福岡市でも5000万円ぐらい。

でも、私が住んでいるこの山村なら、たった20万円で。固定資産税の節約にもなるのです」

最後に本誌読者に向けてこんなメッセージを寄せてくれた。

「ローンの心配や、終の棲家を見つけられない心配など、住宅の課題というのは、本当に大きな問題でした。

でも、その課題を技術で解決できる未来が、少しずつ近づいてきているということを、覚えておいてほしいです。

一度しかない人生、住宅ローンに縛られることなく、もっと自由に生きていいはずだと思います」

最新技術を詰め込んだ、住む人にも、お財布にも優しい「3Dプリンター住宅」。

次の住まいの候補に入れてみてはいかが。

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