昨年10月から始まった新型コロナウイルス第8波で、死者数が大幅に増加している。累計死亡者数は6万1281人だが’22年12月2日に5万人を突破してから、わずか1カ月ほどで1万人以上も増加した。
「死亡者数や救急搬送困難事案の増加傾向は継続し、最高値を超える状況が続いている」
加藤勝信厚生労働大臣は11日に行われた専門家組織の会合でこう危機感を示しているが、さらに懸念されるのが、米国で起きている「トリプルデミック」が国内に広がることだ。
米・ニューヨークにあるマウントサイナイ医科大学病院に勤務する山田悠史先生が語る。
「昨年12月に入ってから、米国ではオミクロン株のひとつで感染力・伝播性が高いといわれる『XBB.1.5』への置き換わりが急速に進み、感染者の入院が急増しています。2シーズンほど流行していなかったインフルエンザの感染者が増えたうえに、さらに子どもでとくに問題になるRSウイルスの患者も増加。小児科病棟を中心に医療機関の逼迫が各地で起こりました。3つの感染症の同時流行である“トリプルデミック”が起こり、ニューヨークでも屋内でマスクを着用する人が再び増えています。これまで鳴りを潜めていたウイルスの流行が重なったことで、コロナだけ対処していたときとは異なり医療機関での負担がかなり多くなっています」
全米で猛威を振るっているRSウイルスについて、感染症学が専門の長崎大学大学院の森内浩幸教授が解説する。
「RSウイルスは飛沫や接触により感染していきます。初めてかかった子どもは重症化するリスクが高く、ときに命にかかわることもある乳幼児の細気管支炎や肺炎の大半はRSウイルス感染症によるものといわれています。その症状はコロナやインフルエンザとすぐに区別がつかず“コロナの疑いがある人は診ません”という医療機関が少なくないなか治療が遅れてしまうことが危惧されます」
RSウイルスは、ここ10年ほど国内では秋に流行しているが、本来は“冬場のウイルス”。日本でもいつ再燃するか予想がつかないという。
「さらに日本では子どもの感染症と捉えられているRSウイルスですが、欧米では免疫の弱くなった高齢者にも非常に危険なウイルスだと認識されています。
■肺炎以外にも持病の悪化も死を招くことに
恐ろしいのは、複数のウイルスに同時感染する可能性があることだ。コロナ患者7000人を調査したイギリスの研究チームによると、新型コロナとインフルエンザに同時感染した“フルロナ患者”は、コロナだけに感染した患者に比べて「人工呼吸器の装着」が4.14倍、死亡が2.35倍に。同時感染で重症化することが示されている。
RSウイルスと新型コロナやインフルエンザとの同時感染による重症化リスクを調べた研究はまだ報告されてないが、流行時期が重なる場合、同時感染する“トリプル感染”にも注意が必要だ。
このトリプルデミックが日本で起きた場合、今でも逼迫している医療体制が壊滅的なダメージを受けることは想像に難くない。
内科医で、医療ガバナンス研究所の上昌広理事長が語る。
「新型コロナの致死率は、オミクロン株以降変わっていません。それでも死亡者数が増えている背景には、年末年始に人の移動が活発になり、感染者が増加したことが大きいでしょう。また、“コロナ肺炎”を起こして亡くなるより、老衰、心不全、誤嚥性肺炎など高齢者を中心にコロナ感染をきっかけに持病や状態が悪化して亡くなるケースも引き続き多いです。新型コロナについては感染力や重症化リスクが高いことなどを理由に入院できる病院を一部に限定。つまり呼吸器内科や感染症の専門医が生活習慣病の治療や終末医療を担っていることも医療逼迫の一因なのです。
最後に森内教授が語る。
「インフルエンザ、RSウイルスの感染対策の基本は、新型コロナとほぼ同じです。これまでの感染対策をしっかり心がけましょう。しかしワクチンがないRSウイルスの感染を防ぐには限界があります。症状がある場合は早めに受診しましょう」
このままのペースだと、第8波だけで死者2万人を突破する恐れがあるが、トリプルデミックが起こると死者数の増加に拍車がかかることは間違いない。
トリプルデミックによる医療崩壊を起こさないためにも、一人ひとりの行動が重要だ。