「まぜこぜ一座としては5回目の公演で、今回は新人も含めて31組のパフォーマーが登場します。その中には一般的に障がい者といわれる、特性のあるパフォーマーたちがおり、彼らの素晴らしいパフォーマンスが一番の見所です。

彼らの生き生きとした姿を見て、『健常者のタレントたち同様に活躍できるチャンスを作るにはどうしたらいいんだろう』と皆さんに考えて貰えれば嬉しいです」

こう語るのは、俳優の東ちづる(62)だ。

東はアートや音楽などを通じ、誰も排除しない「まぜこぜの社会」をめざす一般社団法人Get in touchで代表を務めている。「まぜこぜ一座」はGet in touchが結成したパフォーマンス集団で、3月5日に渋谷区文化総合センター大和田で『歌雪姫と七人のこびとーず』と題した舞台公演を行う。

そこには義足のダンサーや全盲の落語家、ダウン症のダンスチームや半身麻痺の役者といった様々なパフォーマーが集結し、芝居を軸にしつつ個性豊かなパフォーマンスが展開されていく。

「今回のテーマは『SNSでディスること』。とても現代的なテーマであり、私にとっても誹謗中傷や抑圧というのは大きなテーマです。そこで“ディスる”の定義や、『ディスる相手を蹴落とすことってどういうことなんだろう』といったものを描いています。私や三ツ矢雄二(68)、ドリアン・ロロブリジーダ(38)による『スリー・ディスリーズ』のバトルも見どころです。

あ、『スリー・ディスリーズ』というのは音楽グループのThe Three Degreesにかけているんですよ。一定の世代にしか分からないかもしれませんけど(笑)」

冗談まじりに語る東だが、「まぜこぜ」という言葉にこめた真意については、こう語る。

「障害があってもなくても、対等でフランクな社会がいい。でもダイバーシティやインクルーシブと聞くとあまりピンと来ないから、敷居を低くするために“まぜこぜ”という言葉を使っています」

しかし、Get in touchが主催する「まぜこぜ一座」オールスターズでの公演は今回で最後だという。

その理由について明かす。

■一番嬉しいのは企業が主催してくれることです

「企業や行政が引き継いで主催してくださるなら、コンテンツとしては開催したいですが、私たちGet in touchが主催で『まぜこぜ一座』オールスターズの公演をするのはもう難しいですね。Get in touchはあくまでボランティア団体で、本業がありますから。これほどの規模の公演をするには半年くらい準備する必要があって、当然お金もかかるし、アウトソーシングもしないといけないし……。

これまで『もう限界だな』と感じることもあったので、本当は今回の公演をするつもりはありませんでした。でも東京オリンピック・パラリンピックが終わった後、レガシーに取り組むことが重要であるはずなのに、あまりそういう動きが見られませんよね? そこで、この公演主催を決意しました」

東日本大震災が発生した際、避難所で障がい者やセクシュアル・マイノリティが追いやられていることにショックを受けた東。そこでGet in touchを発足し、’12年10月に法人化することに。代表11年目となる東は「大変な思い出のほうが多いかな。やっぱりお金の面ですよね」といい、こう続ける。

「Get in touchはボランティアで活動していますから、ビジネスライクに割り切って活動することはできません。お金という道具があると私たちはもっと自由により良い表現ができる。でも、本業をやめて会社組織にするということは望んでいません。

社会を変えたいのに、“社会を変えるための会社”を継続することが目標になるなんて本末転倒。まぜこぜの社会を実現させて、Get in touchを解散させることが目標ですから」

東は「一番嬉しいのは企業が主催してくれることです」という。

「シルク・ドゥ・ソレイユは、毎回“ダイハツ・プレゼンツ”ですよね? SDGsに取り組む企業は増えていますし、まぜこぜ一座もSDGsの複数の目標項目をクリアしていると思います。それでも企業からサポートの声はなかなかかかりません。ただ私たちの努力不足で、公演そのものが周知されていないという点もあるでしょうね」

■「諦め上手になったなぁ」と思いますね(笑)

東は東京オリンピック・パラリンピックの公式文化プログラムとして現在もYouTubeで配信されている『MAZEKOZEアイランドツアー』という映像作品の総合構成・演出・衣装デザイン・キャスティング・総指揮を担当した。しかし、その際には五輪の組織委員会から“まぜこぜ”という言葉を問題視されたという。

「『秩序を乱すイメージがある』と言われたんです。そこから3ヵ月間、ずっと議論しました。『秩序ってどういうイメージなのか教えてください』と聞いたり、『管理がしやすい、統制がしやすい。そういうものが秩序なら私にとっては恐怖です。みんながバラバラな方向を向いていても、配慮し合う。それが多様性だから“まぜこぜ”なんです』と伝えました。

あと『まぜこぜと聞いてどんなイメージを浮かべますか』という質問のデータを集めたところ『秩序が乱れる』という回答が少なかったので、それも提出しました。それで、納得していただいたんです。組織委員会のような社会的に力のある方々のご意見は貴重でしたね。“まぜこぜ”という言葉を客観的に見ることができて、勉強にもなりました」

紆余曲折あった11年。東はその年月を振り返り、自身の“変化”をこう明かす。

「『諦め上手になったなぁ』と思いますね(笑)。団体行動では日々トラブルが起こって、私は代表だから毎日、何かしらのクレームをもらって。でも『まぁ、しょうがない』と。『大丈夫、生きてるから』って(笑)。本当は一人の人間が長い間トップにいる状況は健全ではないんですよ。その人が望まない権力を持つことだってありますから。いつか代表を降りた後は決裁力を持たない形で、Get in touchに関わりたいなと思っています」

そして「実は俳優業でしたいことがたくさんあるんです」といい、笑顔で言う。

「62歳になったので、会社内での女性トップや悪役、おばあちゃん役など、どんどんやっていきたいんです。あと情報番組のMCもしたい。もともと私は司会者としてデビューしたのですが、その時は右も左も分かっていませんでした。だから、今のキャリアでそれをやりたいって強く思いますね。うん、超やりたい(笑)。現場と年齢を重ねてきた今だからこそ出来ることがあると思うんですよね」

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