「岸田政権は、向こう5年間で防衛費総額をこれまでの1.5倍にあたる43兆円にまで増額するため、『歳出改革』などをうたっています。たしかに『改革』といえば聞こえはいいですが、要はこの機に乗じて、“国民の負担増”の流れを作ろうとしているのです。
そう語るのは、社会保険政策にもかかわったことのある元官僚だ。全国保険医団体連合会会長の住江憲勇さんも、同様の懸念を抱いている。
「昨年10月、多くの後期高齢者の医療費が、自己負担1割から2割に引き上げられました。今度は介護保険で、多くの人の自己負担を1割から2割に引き上げられることが検討されているんです」
■負担倍増で認知症進行や寝たきりリスクが
現在、介護保険を利用する9割以上の人たちは、自己負担1割。単身世帯で年間所得が280万円以上、2人以上の世帯で346万円以上の場合は2割負担。単身世帯で年間所得が340万円、2人以上の世帯で463万円以上の場合が3割負担となっている。
介護施設のコンサルタント業を請け負うスターパートナーズ代表の齋藤直路さんが語る。
「2024年度の改定では、詳しい基準はまだ発表されていませんが“原則2割負担”にする議論が行われています。そうなれば、多くの人にとって、介護費用がこれまでの2倍となります」
では、具体的に、介護費用がどれほどの負担増になるのか。齋藤さんに概算を出してもらった。
「たとえば、認知症で要介護2と認定されて在宅介護をする場合、症状にもよりますが、週2回のデイサービスで、入浴サービス、認知機能を維持するための学習療法などを行うのが一般的です」
デイサービスで受ける介護サービスの費用が、自己負担1割の場合で1回900円ほどだとすると、1カ月で7200円、年間で86400円となる。
「自己負担2割になることで、同額の年86400円が負担増になります」
症状が進み、要介護3となり、デイサービスを週3回、さらに介護ベッドをレンタルする場合は、負担はさらに重くなる。
「デイサービスでの介護保険自己負担分を1回1000円で月12000千円、介護ベッドのレンタル料が月1000円と仮定すると、2割負担になることで、1カ月の介護費用は13000円、年間に換算すると15万6000円もの増額に」
懸念されるのが利用控えだ。一般社団法人日本デイサービス協会が、’22年にデイサービス利用者を対象に行ったアンケート調査によると、《現状を維持してほしい》と答えたのは65%。
全体の30%が利用回数を減らす、利用時間を短くする、利用を中止するなど、デイサービスの利用方法の見直しを行うと回答している。
「ケアマネジャーによって、利用者ごとに必要なケアプランが組み立てられています。利用控えがおきることで、認知症の症状が進んでしまったり、リハビリがおろそかになって身体機能が落ちてしまう可能性が。サービスを控えた分の介護負担は、家族にのしかかるケースもあるでしょう」
一方、介護付き有料老人ホームに入所した親を持つ家族からは、こんな不安の声が寄せられている。
「母の年金と貯金、利用料と介護費用の自己負担を見比べて、“大きな持ち出しはなく、一生、看取りまでお世話になれる”と見込んで入居しています。しかし、介護費用が倍増すれば、親の年金と貯金だけではまかなえず、私が補?しないといけないことに。人生設計が狂わされてしまいます」(50代主婦・Aさん)
介護付き有料老人ホームは、24時間体制で介護を受けられるため、介護費用は安くない。
「1カ月の介護費用は、要介護1で18000円、要介護2で19500円ほどです。2割負担になると、年換算で、それぞれ21万6000千円、23万4000円の負担が増えることになります」
Aさんの場合も、親が入居し続ける限り、年間23万4千円の負担増になる。
■退去したくても行く先がない
利用料金が安価なために入所待ちとなることも多い、特別養護老人ホーム(特養)利用者への影響も大きい。
「特養の場合、月額の利用料は5万円から15万円ほどと安価ですが、基本的に入所できるのは要介護3以上のケース。自己負担額が倍増すれば、その影響は大きい。要介護3でユニット型個室を利用している場合、月額約24000円(年間28万8000円)、要介護5にいたっては月額約28000円(年間33万6000円)も、介護費用が増えることになります」
老人ホームや特養をついのすみかと考えて入居した人は、すでに自宅を売却してしまっているケースが多いので、介護費用が高くなったからといって、施設を退去できない。結局は貯蓄を取り崩したり、子供が費用負担するケースが増えてくることになる。
私たちの生活に大きな負担がある介護保険の改定。しかし、前出アンケートによると、原則2割負担の議論があることを知っている人は、わずか24%にすぎない。
「さらに2027年度の改定で議論される可能性があるのは原則無料になっているケアプラン作成の有料化。毎月、ケアプランが作成されますが、有料化すると10000~20000円かかります。2割負担とすると、年間12000円から24000円ほどの負担増になるわけです」
“介護破綻”しないためにも、政府の議論を注視しよう。