止まる気配のない物価高。老後資金はますます不可欠になっていくが、すでに還暦を迎えた私は手遅れなの? じつは60歳からでも努力次第でどうにかなるかもーー。
■資産形成には新NISAを活用しよう
「いまや投資はやらないとまずい時代です。金利0.002%の定期預金では、物価高に負けて資産はどんどん目減りしていきます」
そう話すのは『定年後でも間に合うつみたて投資』(KADOKAWA)の著者でファイナンシャルプランナーの横山光昭さん。人生100年時代、自分の寿命より先に、資産が底をついたら……。老後破綻は恐怖だ。だからこそ、長生きする分、金融資産の寿命も自分で延ばす必要があるという。
「今後もインフレは続くでしょう。60代を迎えた人も、インフレ率より高い3~5%の運用を目指しましょう」(横山さん、以下同)
そんなに簡単じゃないのでは?
「私がおすすめするのは新しいNISA制度を使ったつみたて投資です。毎月積み立てる仕組みを作ればほったらかしでOK。知識がなくてもやりながら学びましょう」
2024年から始まる新NISAは、非課税での保有期間の無期限化や、非課税限度額の引き上げなど、かなり使い勝手のよい制度だそう。
■貯金と投資で331万円の差が出る
つみたて投資は、投資期間が長いほど投資で得た利益を次の原資に組み込んでさらに運用する「複利」がメリットだが、素人に3~5%での運用は可能なのか。
「私は、日本ならTOPIX、米国ならS&P500指数などの代表的な指数と同じ値動きを目指すインデックスファンドでのつみたて投資をおすすめしています。これらの過去20年の実績を見ると、3~5%の運用は難しくありません。
長い投資期間が必要なら、中高年には不向きなのではないだろうか?
「60歳から始めても80歳までで20年。その間2万円ずつの貯金では、ほぼゼロ金利で480万円ですが、投資して5%で運用できたら20年間で811万円を見込めます。その差は331万円です」
仮に毎月5万円を積み立てられたら、貯金だと1千200万円だが、5%運用なら2千29万円になる可能性も。以前「老後2千万円不足」と言われたが、60歳から2千万円が作れるのは朗報だろう。はたして、どう始めればいいのだろうか。
「まず、目標額を決めましょう」
毎月の生活費30年分に、介護費用などの特別費を1千万円上乗せして、総支出額を計算する。いっぽう収入は、労働収入のほか公的年金や退職金、これまでの貯蓄などをすべて足し合わせる。収入合計から支出合計を差し引けば、老後資金の不足分がわかる。これを投資目標とするのだ。
「手元には生活費1年分と、車の買い替えなど直近で使う予定のある費用を残し、それ以外はすべて投資に回しても構いません。基本的には毎月の収入の6分の1を投資に回すのがおすすめ。
たとえば夫の収入が月20万円、妻が月10万円なら世帯収入は30万円。6分の1にあたる5万円を投資に回す。年金を受給し始めてからもできる限り働き、投資額を捻出しよう。だが、高齢になって以前のように働けなくなったら……。
「思っていた以上に生活が厳しいなら、家計を見直してムダを削りましょう。それでも厳しい場合は、退職金や貯蓄から捻出するか、投資額を減らしてもいいでしょう。ただし投資をやめてはだめ。少額でも続けることが大切です」
退職金はどう投資する?
「全額を一気に投資につぎ込んではいけません。いくら大金があっても、複利のメリットが生きるつみたて投資での運用が◎です」
■利回り以内の取り崩しで老後資金は減らない
20年投資を続けたあとの現金化のやり方は?
「介護施設への入所などで資金が必要なときや、ムダ遣いを減らしても生活費が苦しくなったときなど、必要なタイミングがきたら少しずつ取り崩します。『積み立ては2万円、5万円といった定額で、取り崩しは4%、5%といった定率で』がセオリーです」
5万円ずつ積み立て、約2千万円の資金がある人が、年4%取り崩すと、初年は80万円受け取れる。約800万円の老後資金なら4%だと32万円、5%だと40万円を手にすることに。取り崩した残りは、その後も運用を続けます。
絶対にやってはいけないのは、取り崩すタイミングですべて売却して預金に移してしまうこと。
「ほぼゼロ金利の銀行預金がいかにもったいないかわかるでしょう。定年世代はまだ間に合います。新しいNISAを待たず、今からすぐに始めるといいでしょう」
つみたて投資で、長生きに耐えうる「減らない資産」を作ろう。