23年6月、ウクライナ北西部の都市・ジトーミルの郊外にある墓地。ここで痩身の男性が妻の墓前にたたずんでいる。
「しばらく来られなくなるけれど、また来るからね」
そっと手を合わせ、祈りを捧げるのは降簱英捷さん(79)。
1年3カ月暮らした日本から、危険を顧みず再びウクライナの地にやってきた。
英捷さんの両親は戦前、日本統治下であった南樺太(現在のサハリン)に一家で移住。英捷さんは2歳で終戦を迎え、ソ連の占領後はさまざまな事情から日本へ帰還することがかなわなかったサハリン残留邦人だ。
戦後、日本に帰れなくなった英捷さんは家族とともにサハリンで暮らし、その後、半世紀をウクライナで生きてきた。
22年2月24日にはロシアがウクライナに侵攻。英捷さんは人生で2度も戦争で「故郷」を奪われ、3度国籍を変更するという数奇な運命に翻弄された。
戦禍のウクライナから命からがら脱出し、日本への帰還を果たしたのが22年3月19日。
成田空港でマスコミのカメラの放列の中で、出迎えた長兄・信捷さん(81)や妹のレイ子さんらと「もう会えないと思っていたよ」と言いながら抱き合って再会を喜ぶ姿が全国ニュースで報じられた。
これより2週間前の3月5日、英捷さんはウクライナを脱出した。
キーウから西に140km。
冒頭にあるように英捷さんが1カ月のウクライナ行きを敢行したのは、その地でまだやり残したことがあったからだ――。
早朝、1年ぶりの再会に狂喜して飛びついてきてくれた愛犬とともに、近所を歩いてみた。
緑豊かな美しい街は何事もなかったかのようだが、そこから車で数十分走ると、砲撃で破壊された集合住宅の瓦礫が、まだそのまま残存する光景も広がる。
英捷さんは、日本への帰還に尽力し新生活が安定するよう寄り添ってくれている日本サハリン協会の斎藤弘美会長に、この悪夢のような残骸を動画で送った。
「弘美さん、人々は日常を取り戻そうとがんばって働いています」
そして英捷さんは戦禍のウクライナに戻ったインナさんが産んだ、ひ孫のエミリアちゃんを抱くこともできたという。
■3期の肺がんの診断「ここまで生きてくることができたのだから、いつどうなっても運命」
現在、北海道の旭川で英捷さんが一人暮らしをするのは緑豊かな高台に立つ公営住宅。妹のレイ子さんがすぐ隣の棟に暮らす。
記者がインタビューで自宅を訪れたとき、レイ子さん、日本サハリン協会会長斎藤弘美さんらが英捷さんの自宅を訪れていた。
「広い家ね」
「快適そうでよかった」
2LDKの各部屋はすっきりと整頓され、キッチンには6月にウクライナから持ち帰った、ソ連時代から愛用している珍しい調理器具も。
この日英捷さんは、翌日に抗がん剤治療が控えているにもかかわらず、手の込んだウクライナの家庭料理をふるまってくれた。
実は帰還直後、咳が止まらなくなった英捷さんは近所のクリニックで受診したあと、旭川医大病院で精密検査を受け、3期の肺がんが発見されていたのだ。すぐに放射線と抗がん剤の併用治療に入り、いまは奇跡的にがんが小康状態となっている。
「再発を防ぐための免疫治療の段階です。思ったよりは副作用が軽くて助かっています。ただ、私はここまで生きてくることができたのだから、いつどうなっても運命と思っています」
がん治療が一段落した今年の6月、英捷さんが戦禍のウクライナへ向かったのは、ウクライナ人としての人生の総まとめの活動であった。
緊急避難のときは何も持ち出すことができなかったため、妻や家族の写真や、思い出のウエディングドレスを持ち帰りたかったこともあったという。
「何よりも21年に他界した一人息子ヴィクトルの墓碑を建てる目処をつけたかったのです」
英捷さんの家は孫が機転を利かせて、焼け出された老夫婦に当座、貸与することにしていた。
滞在中に英捷さんは、この家やダーチャなどの財産を孫たちに譲る手続きを完了させた。
すでに昨年11月、英捷さんに日本国籍の残存が確認され、旭川の現住所に新戸籍を編製。ウクライナ人としてひと区切りつけた英捷さんは、日本人として歩みだしている。
「日本語がまだよく話せないから、不思議な日本人ですが」と苦笑いする。
英捷さんが終始穏やかな口調で話すロシア語を通訳するのは、病院にも付き添っている鈴木桃子さんだ。人生半ばを過ぎて永住帰国した残留邦人は、日本語を習得することが困難であり、優れた通訳者の支援は命綱なのだ。
「支援というより、英捷さんには私のほうがロシア語教室を手伝っていただき、助けられていることが多いです」
と柔らかくほほ笑む桃子さん。
ウクライナから英捷さんとともに日本に避難した孫の妻のインナさんは、着いた早々に妊娠が判明。1カ月も滞在せず、娘のソフィアちゃんとともにウクライナへ帰還した。やむなく大学を休学していた孫のヴラーダさんも、1年5カ月を日本で過ごしたのち、復学のために故国で生きる道を選択した。
■ウクライナと日本――。家族を引き裂く戦争は、早く終わらせなければ
ウクライナの現状を目にした英捷さんは現地に思いを馳せる。
「彼女たちが無事で生きていってくれることを祈るしかありません。ジトーミルはいまだにミサイルが上空を飛び交い、頻繁にサイレンが鳴り響く夜が続いている。いまやこの状況が日常となってしまっているのです」
私は軍事専門家ではなく、普通の市民である──と前置きし、英捷さんはこう訴える。
「戦争は絶対にしてはいけない。
人生の変転やがん治療にも立ち向かってきた英捷さんだが、家族の身に危険が及ぶことを考えると、恐ろしくてたまらない。
「先の大戦でソ連が樺太に侵攻し、日本に帰れなくなった私が、晩年になってロシアの侵攻により、図らずも日本へ帰ることになった。私のことは『これが運命』とすべてを受け入れるけれど、国と国が分断され、家族が引き離されることが何よりつらいのです」
英捷さんが願うのは人々が国と国を自由に、そして安全に行き来できる世の中であること。ただそれだけだ。
【後編】ウクライナから決死の脱出 ソ連で生きてきた日本人男性の平和への願いへ続く

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