「水道料金は、水源が近くにあるか、水質が飲むのに適しているかなどに加えて水道を利用する人口や人口密度によって自治体ごとに大きく異なります。水道管の老朽化や人口減の問題により、自治体間の料金格差が広がっています」

そう語るのは、水道事業に詳しい近畿大学の浦上拓也教授。

まずは日本水道協会の「水道料金表」(2023年4月1日時点)をもとに、家庭用の水道料金(月20立方m使用)の高い、安い市区町村をまとめてみた。

全国でいちばん安かったのは兵庫県赤穂市で月あたり869円。もっとも高かった北海道夕張市では月6千966円。その差は実に8倍、約6千97円も差が出ている。

赤穂市はなぜここまで水道代が安いのだろうか。

「市中心部を流れる、名水百選にも選ばれた千種川が水源。水質がよいため浄化する薬剤や設備のコストが抑えられています。密集した居住地が浄水場に近く、水道管の総距離が短いこと。赤穂市は塩の産地として知られますが、井戸を掘っても塩水が出るため江戸時代から上水道を整備。それが現在の水道事業の下地になっています」(赤穂市上下水道部総務課)

一方、もっとも高い夕張市の上下水道課の担当者はこう語る。

「炭鉱で栄えた市内は、起伏の多い山間地にあるため、浄水場から水をくみ上げるポンプ場や飲み水をためる配水池などの施設を使って各家庭に給水します。また面積が広く、集落も点在しているので水道管の総距離も長く維持経費が増すばかり。

さらに人口減で水道料金収入も激減。『水道代が高い、なんとかしろ』と市民からお叱りを受けることもありますが、これでもギリギリの状況です」

浦上教授が解説する。

「水道の事業は、自治体が運営する地方公営企業の独立採算制が原則。つまり足りないからといって税金を使うことはできず、水道料金で賄う必要があります。ところが人口減や節水機器の普及で水道料金収入は大きく減少しています。

現在の上水道は高度成長期に整備したため水道管や水道施設は老朽化。漏水や破裂事故が起きていますが、その更新やメンテナンスの資金は十分ではありません。今後も人口減少が加速したり、人口密度が低い自治体では、水道料金の値上げの必要に迫られてくるでしょう」

民間の研究グループ「EY Japan」の試算によると、水道料金の市町村の格差は、2046年には20倍以上に広がるという。

■人口密度の低い地域では値上げもやむをえない

水道料金の格差は、市区町村だけではない。都道府県ごとの家庭向けの平均水道料金を調べてみた。

もっとも安いのは神奈川県で月2千223円。全国平均(月3千343円)よりも1千円以上安い。

「県内の水源は相模川と酒匂川で、そこに横浜市、川崎市、横須賀市を含め12市6町を給水区域とする県営水道などが共同でダムを開発。水源の確保とともに人口密度が高い自治体が多く、維持管理費が抑えられていることも影響しているようです」(神奈川県健康医療局水道グループ)

もっとも水道代が高いのが青森県。月あたり4千519円。神奈川県の2倍で、月2千296円も高くなっている。

「県内の多くの市町村では、集落が広範囲に点在し、浄水場など水道施設の集約が困難。そのぶん維持管理費用がかかります。北国なので冬季の凍結をふせぐため水道管もより深く掘らないといけないこともあり、工賃が高くなるという意見も。少子化や過疎化による人口減を食い止めるのは難しく抜本的な対策は見つからないのが現状です」(青森県県土整備部都市計画課)

最後に浦上教授が語る。

「蛇口から出る水をそのまま飲める国は世界でも日本を含めて9カ国しかありません。

将来にわたって安全で安い水を飲むためには、複数の自治体による『広域化』もひとつの選択肢です。また全員で“水道を支えていく”という意識を持つことも重要です」

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