老後2千万円が不足する。その言葉に危機感を覚え、新NISAを始めた人も多いだろう。
■ハードルが下がったぶん目立つ準備不足
2024年に改正された新しい少額投資非課税制度(新NISA)が人気だ。1~3月の新規口座開設数は約170万件と、前年同期と比べて3.2倍に達する。
「新NISAになり、長い目で資産形成できる環境が整ったといえるでしょう。18歳以上ならいつでも始められ、最大のメリットである非課税投資は無期限。50歳で始めても遅くないし、何かあればいつでも解約できるのも安心です」
そう話すのはファイナンシャルプランナーの山中伸枝さん。CMなどで「初心者でも安心」と宣伝されることもあり、この機会に投資に初挑戦する人が多いという。
「安心感のアピールが強すぎるのではないかと心配です。投資である以上、リスクはゼロではありません」(山中さん、以下同)
当然、元本割れするリスクがある。投資成績がふるわないために老後資金が減ってしまい、老後破綻を招く危険性もあるだろう。
「投資は自己責任で行うものです。
実際どんな人が新NISAで失敗しやすいのだろう。金融機関の窓口でよく聞く危ない“ひと言”とともに、実例を教えてもらった。
■ダメ事例1 窓口で「NISAください」という
「せっせと節約、コツコツ貯金」に励んできたAさんは、物価が高騰し、目標だった2千万円が貯められないと悩んでいた。
「まだ新NISAやってないの? 今は貯金より新NISAよ」
そう友人に言われ一念発起。Aさんはなじみの銀行の窓口で行員に声をかけた。
「新NISAをくださいな」
【対処法】
「投資には多少の勉強が必要です」
とはいえ、NISA本は分厚く、ネット検索してもどれが正しい情報か判断できない。なにより専門用語ばかりの文章は意味不明だ。
「いつもの銀行だけでなく証券会社など複数の金融機関に行き、説明を聞いて。さまざまな人から解説を聞くうちに理解が進みます。そのうえで、わかりやすく丁寧に教えてくれた金融機関とお付き合いするといいでしょう」
■ダメ事例2「金融機関といえば、銀行」と考える
「株主優待の割引券がある」などとよく言う友人の影響で、Bさんは株主優待に興味津々。
手始めに新NISAを始めようと向かったのは、銀行だった。
「金融機関といえば銀行でしょ」
そんな発想から、なじみの銀行で新NISAを始めることに……。
【対処法】
「銀行では株式投資はできません」
金融機関といえば銀行を思い浮かべる人が多いが、株式投資など幅広い投資がしたいなら証券会社へ。NISA口座は1人1口座に限られ、金融機関の移動は可能なものの、条件が多くむずかしい。
「新NISAは、将来的にどんな投資がしたいか計画を立て、それに適した金融機関で始めましょう」
■ダメ事例3 窓口で「おすすめは何ですか?」ときく
投資の初心者は「専門家の言うとおりが安心」と思いがちだ。
Cさんも、新NISAを始めようと考えたが、何を選んでいいかわからない。
プロの意見を聞いてみたくて「おすすめは何ですか?」
【対処法】
即座に「これがおすすめです」と示された投資信託にCさんはなんとなく不安があった。
だが「専門家が大丈夫と言うのだから」と自分を納得させて契約。運用開始後、専門家の予想した利回りに到底届かず、自宅のリフォーム費用が捻出できなかった。
「人それぞれ働き方や人生設計が違います。老後といっても、お金が必要なタイミングはそれぞれ異なります。それらを何も聞かずに提示するおすすめ商品は、誰が得をする、誰にとってのおすすめか、考えてみてください」
金融機関がもうかる商品かも。
■ダメ事例4「とにかくもうかる投資がしたいの」とリスクを度外視する
夫の定年退職が間近になったDさんは、老後資金不足に焦っていた。
コツコツ貯金では間に合わない。
【対処法】
新NISAのつみたて投資枠には、長期分散投資に適すると金融庁が認めた投資信託が並ぶ。これらは信託報酬などの手数料が安く、金融機関のもうけは少ない。
いっぽう成長投資枠は、ハイリスクな商品や手数料の高いものもあり、選択眼を必要とする。
「成長投資枠は投資スキルが成長してからチャレンジを。投資初心者に『もうかる』を連呼する金融機関は避けたほうが無難です」
■ダメ事例5「債券だから安心です」という担当者の言葉を信じる
投資が怖いEさんは「新NISAなら安心」と言われ投資を始めることに。
それでも不安が消えず、「株価みたいに上がったり下がったりせず、安心な投資はないか」と証券会社の担当者に聞くと、「債券なら安心です」と答えが返ってきた。
【対処法】
株より債券市場は安定的なことが多いが、金融機関が勧めるのは「外国債」がほとんどだ。
「外国債は債券市場の値動きのほか、円に換金する際の為替が損益に影響を与えます。為替は慣れた人でないと難しいもの。投資は『理解できないものには手を出さない』というのが鉄則です」
投資初心者にわかりやすく解説する金融機関は少ないそう。「安定している」「債券は安心」でゴリ押しする金融機関は怪しいかも。
■ダメ事例6「普通預金はもったいない」と言われ、投資にすべて投じる
先月退職金を受け取ったFさん。
人生で初めて見る大きな数字が通帳に並び、浮足立っている。何か急いで手を打たないといけない気がして金融機関に駆け込んだ。
「普通預金に置いておくなんてもったいない。せっかくの大金、成長投資枠で増やしましょう」と言われ、大金を一括投資してしまった。
【対処法】
投資にリスクはつきものだ。もうかることも、損することもある。
「投資は、損しても許容できる範囲で行いましょう。初心者は月1万円など少額から始めてください」
退職金の投資が大暴落して「家族に言えない」と泣きながら相談に来た人もいるという。
「投資は熟成ワインと同じ。“10年、20年先のお小遣い”と考え、大きく育つのを待つものです」
とすると、2~3年後に使う予定のあるお金は?
「投資には不向きです。退職金のような大金でも、しばらくは普通預金のままで大丈夫。いつ、どれくらいのお金が必要かなど退職金の使い道を決めるのが先決です」
流行にあおられることなく、上手に新NISAを活用しよう。