6月のある真夏日に、屋外で運動をしていた50代男性が、頭痛や吐き気に加え、手足のしびれを感じていたものの、熱中症だと判断。帰宅してシャワーを浴びた後、涼しい場所で横になった。
――今年も、すでに真夏日が続出している。熱中症への警鐘が鳴らされているが、間違えやすい病気に脳梗塞がある。熱中症と思い込み判断を誤ると、このように恐ろしいことが起こってもおかしくない。さがら内科クリニック院長・相良昌秀さんは次のように語る。
「暑さで体調を崩し、頭痛や吐き気、ふらつきといった症状が出た場合は、熱中症を疑うことが多いと思います。しかし、熱中症の症状に加え、別の症状があるときは脳梗塞を疑う必要があります」
脳梗塞というと、寒暖差が大きい冬に多く発症するというイメージを持っている人も多いのではないだろうか。しかし、夏場に発症する例も多く、夏と冬の2つにピークがある病なのだ。
「汗をかくことで、体が脱水状態に陥り、体内の水分量が減少すると血液量も減少し、血液濃度が高くなると、体内に流れる血液がドロドロになります。そのような状態になると、血管の中に血の塊の『血栓』ができて、血管を詰まらせてしまうのです。
また、この血栓が、肺の血管に詰まれば『肺梗塞』、心臓の血管に詰まれば『心筋梗塞』を発症します」(相良さん、以下同)
熱中症も、夏の暑さによる脱水症状が起因している。
「熱中症は、高温の環境下で、体温の調節機能が破綻するなどして、体内の水分や塩分のバランスが崩れて生じる症状の総称。
特に気をつけてほしいのが高齢者。高齢になると、暑さを感じにくくなるなど、体温感覚が鈍くなります。気づかぬうちに熱中症になっている例もあるため、周りの人も声をかけるなどして、気をつけてあげたほうがよいですね」
熱中症も脳梗塞も、発症の要因のひとつは脱水。それを防ぐうえで大切なのは、体内の水分バランスだと、相良さんは話す。
「体内の水分が不足することで、心臓にも負担がかかり、水分が10%以上失われると、死にいたることも。こまめに水分をとるように努めましょう。
また、日中だけでなく睡眠時も、脱水の危険性があります。防止するためには、寝る前にコップ1杯の水を飲むなど、水分をとることが大切です。特に高齢者の中には、夜中にトイレに行きたくないという理由で、飲みたくないという人もいますが、トイレに行くということは、水分が足りている、というサイン。
■発症から治療までのデッドラインは4時間半…
軽い熱中症の場合は水分や塩分をとり、体を冷やして、涼しい場所で体を休めることが推奨される。しかし、脳梗塞の場合は、即何らかの処置をしないといけない場合が多いため、まずは、熱中症か脳梗塞かを見分けることが重要だ。では、症状が現れたときには、どのように見分ければよいのだろうか。
「頭痛や目まい、ふらつきや吐き気などの熱中症の症状に加え、片側の手足に何らかの症状がある、表情に左右差が出ているなど、顔や腕に麻痺がある場合は、脳梗塞を疑います。
口や眉毛などの片側だけがゆがんだり、片方の腕だけ力が入らなかったり、水を口に含んでもうまく飲み込めずにこぼれ落ちてしまうことも。このような症状は熱中症には見られません。決定的な点は手足のしびれや脱力。片側だけに麻痺が起こっている状態であれば、脳梗塞の可能性が高いでしょう。
脳梗塞の疑いがある場合は、迅速な対処が必要で、発症から治療までにかかる時間のデッドラインは4時間半。脳梗塞の場合、これを超えると命の危険度が高まるため早急な対応を要します。
この場合、熱中症と判断して、日陰でゆっくり安静にさせていたら、取り返しのつかないことに」
熱中症も脳梗塞も適切な知識を持って、いざというときに混同しないよう、十分な注意をすることが必要だ。