65歳以上の高齢者を対象として「プラチナNISA」を創設しようとする動きが出てきました。自民党の岸田文雄前首相らが、新NISAの拡充を4月23日石破茂首相に提言したのです。
プラチナNISAは、運用で得た利益(運用益)が非課税になる点は現行の新NISAと同じです。違いは、新NISAでは買えない「毎月分配型」の投資信託がプラチナNISAでは買えることです。
毎月分配型の投資信託とは、運用益の一部を「分配金」として毎月受け取る投資信託です。「毎月運用益がもらえるならありがたい」と思いがちですが、実は2つの大きなデメリットが隠れています。
1つ目は長期投資には不向きなこと。長期投資は運用益も元本に組み込み元本を増やしながら投資を続けることで、運用益がさらに運用益を生む「複利効果」をねらっています。ところが毎月分配型のように、運用益を分配し投資に回さないと十分な複利効果は得られません。分配金は長期投資のメリットを打ち消してしまいます。
2つ目は、分配金は運用益ばかりではない点です。毎月分配型投信は、毎月一定額の分配金を出し続けます。分配金は、利回りがよければ運用益でまかなえますが、利回りが悪い場合は運用益だけでは足りずに投資元本を取り崩して配られます。タコが自分の足を食べるのに似た“タコ足配当”です。
■1千万円で購入した元本は現在は500万円と半減
毎月配当型投信は過去にも、一世を風靡したことがありました。
1997年に売り出された通称「グロソブ」は、1千万円の投資で毎月4万円の分配金を約束し、人気を博したのです。ただ分配金の年48万円を運用益でまかなうには4.8%の利回りが必要です。そのうえ金融機関の手数料は1.25%で、合わせて6.05%以上の利回りがないと、元本を取り崩すほかない商品設計だったのです。
投資の初心者は、分配金のために元本を取り崩すとは思わないでしょう。金融機関がきちんと説明していたかも疑わしいです。特に高齢者は、分配金は「年金の上乗せになる」という宣伝を信じて購入した方が多かったのです。
発売当初は好調だったグロソブですが、その後急激な円高で半値近くに下落。分配金は徐々に減って5千円となり、気付けば1千万円で買ったグロソブの元本は現在500万円になっています。
苦い歴史のある毎月分配型ですが、依然として高齢者に人気があります。これをプラチナNISAに組み込んで高齢者が持つ資産を投資に向かわせたい、これが国や金融機関のもくろみです。というのも日本の家計の金融資産は約2千兆円ですが、その6割は60歳以上が持っているからです。
プラチナNISAは2026年度の税制改正要望へ盛り込むことを目指すようです。もし実現したら「国のお墨付きがあるから安心」と金融機関が販売攻勢をかけるでしょう。高齢者が餌食になるのではないかと私はとても心配です。