“アンパンマン”を生み出したやなせたかしさん(享年94)と妻・暢さんをモデルに、激動の時代を生き抜いた夫婦の半生を描くNHK連続テレビ小説『あんぱん』。3月31日からスタートした物語も折り返しを迎え、後半に突入した。
今田美桜(28)演じる男勝りで勝気な“はちきん”の朝田のぶと、北村匠海(27)演じる柳井嵩。前半戦では、幼少期から青年期を経て、第二次世界大戦は終戦を迎え、今後のぶは嵩の妻として生きる姿が描かれることになる。
中島歩(36)演じる最初の夫の若松次郎を看取り、嵩との4年ぶりの再会が示唆された6月24日放送の第62回は、舞台となる高知地区での世帯視聴率は31.6%(ビデオリサーチ調べ)と、番組最高を更新。同じく高知を舞台とした’23年の『らんまん』の最高世帯視聴率31.1%を上回った。
TVコラムニストの桧山珠美さんは前半戦の感想を「名脇役たちが引っ張って作品が輝いた」と高評価。その理由を解説してもらった。
「まず子役たちががんばりましたよね。朝ドラ歴代最低視聴率を記録した前作『おむすび』からの悪い流れで初回の視聴率は悪かったですが、イメージ通りの子役たちがまず視聴者の心を繋いだと思います。さらに、ヒロイン以外の登場人物にもちゃんと繋がりや縁があって、それぞれのキャラクターにもスポットライトが当たり際立っていたのもよかったです」
「何のために生まれて何をしながら生きるがか、見つけるまでもがけ」など、ことあるごとにやなせ作品に絡めた名言を口にする竹野内豊(54)演じる嵩の伯父や、中澤元紀(25)演じる弟の千尋が作中で亡くなった際は、SNS上で“ロス”が広がるほどの反響があった。
「嵩と千尋の場面はすごくよかったですよね。佐世保から駆逐艦に乗って南方へ出発する直前に兄弟2人で会って、千尋が思いをぶつけて、最後に『この戦争さえなかったら』って言う回は心を動かされました。あのシーンも嵩は受けの芝居で、やっぱり見どころは千尋の演技でしたね」
6月12日放送の第54回では出征前の千尋が「この戦争さえなかったら! 愛する国のために死ぬより、愛する人のために生きたい!」と魂の叫びを嵩にぶつける。
さらに、桧山さんが前半最大の“神回”としてあげるのが、5月8日放送の第29回。河合優実(24)演じる朝田家の次女・蘭子と細田佳央太(23)演じる出征前夜の“豪ちゃん”の思いが通じ合うシーンだ。結婚の約束をした2人のもとに息を切らした江口のりこ(45)演じる母親の羽多子が現れ、蘭子に着替えを渡し「今夜はもんてこんでええ」と2人を送り出す演出も視聴者の涙を誘った。
「蘭子の魂が震えるような演技を視聴者みんなが見せつけられて涙したはずです。さらに、豪ちゃんの戦死の報せがあった晩、蘭子が線香の火を絶やさず、豪ちゃんの愛用してた半纏に『豪ちゃん、おなか空いたね』と話しかけるシーンや、のぶが家族の集合写真を撮る際に豪ちゃんとヤムおじさんの不在を嘆いたら、蘭子が『豪ちゃんはここにおるき』と胸を指すシーンも、豪ちゃんが本当にいるように見えるくらいの名演技でした。
だから、前半で特に高評価したいのは、あそこまでいい演技をする圧倒的な存在感の河合優実と中澤元紀と細田佳央太と竹野内豊ですね」
圧倒的人気を誇る“橋本環奈の一点突破”という軸で突き進んだ前作『おむすび』との決定的な違いはこうした点にあると桧山さんはいう。
「今作は、主人公の2人というよりは、その周りの脇役たちにすごくしっかりスポットが当たって、その人たちがみんなで作品を良くしてきたというのが1つありますよね。のぶは“愛国の鑑”で途中から視聴者にかなりストレスを感じさせる役を演じさせられているし、嵩も暗くてまだ存在感が薄めです。
ただ、史実で先がわかっているからこそ、どれだけモヤモヤしてもある意味安心感を持ってアンパンマンができるためには“これが必要なんだ”という気持ちで観ることができます。後半では悲しみを乗り越えて、バイタリティーのあるのぶによって嵩が導かれる姿が描かれることになると思いますが、今ちょっと嫌いになりかけているのぶを“本当に好きにしてくれるんでしょうね?”というのも今後の見どころです(笑)」
他にも後半戦の見どころとして、桧山さんは名脇役たちの登場に期待を込める。妻夫木聡(44)演じる、ミステリアスでことある度に嵩を助けた八木信之介は公式サイトの人物紹介に《戦後、嵩と思わぬ再会を果たし、のぶと嵩の人生に大きな影響を与えるようになる》とあるが――。
「八木のモデルだと噂されているのが、やなせたかしの処女詩集『愛する歌』を出版し、『詩とメルヘン』という雑誌も刊行したサンリオの創業者・辻信太郎じゃないかといわれています。八木信之介の名前も信太郎と似てます。
第51話では、嵩が井伏鱒二の詩集を持っていて古参兵からとがめられますが、八木が嵩を助けて嵩の詩集を興味深げに眺めるシーンがあります。八木もよく読書をしていますが、それから八木がことあるごとに嵩に助け舟を出すようになります。あれが『詩とメルヘン』に繋がるのかなという気がします」
また、他にも“登場”が約束されているキャラクターにも期待を寄せる。
「阿部サダヲ(55)演じるヤムおじさんがどんな形で再登場するのかも楽しみですよね。それに、いよいよ満を辞してアンパンマンの声優・戸田恵子(67)が“鉄火のマキちゃん”として薪鉄子という名前で出てきます。
さらに、Mrs. GREEN APPLEの大森元貴(28)が、やなせたかしさんが作詞する『手のひらを太陽に』の作曲を手掛けた作曲家・いせたくや役で出ます。他にも手塚治虫や永六輔などテレビの草創期の人たちも出てくるとのことです。前半はアンパンマンのキャラが“この人だ!”みたいな面白さがありましたが、後半は実在した人物を誰が演じるかというのも見どころですね」
戦時中に嵩がのぶにプレゼントしようとして受け取ってもらえなかった“赤いバッグ”など、前半に撒いた数々の種がどう生きてくるかも注目だという。後半戦も目が離せない。