「突然の赤みやかゆみ、ガサガサした湿疹が出たら、もしかするとがんのサインかもしれません」そう警鐘を鳴らすのは、東京都江戸川区のひまわり医院の院長で内科・皮膚科医の伊藤大介先生だ。
蒸し暑い日本の夏はあせも、水イボ、虫刺されなどの肌トラブルが増える時季だ。
「内臓の悪性腫瘍が原因となって、皮膚に何らかの兆候が現れることを『デルマドローム』といいます。理由はさまざまですが、ひとつには、悪性腫瘍が体内で化学物質を生産することで正常な皮膚の細胞に変化を起こし、皮膚の病気として発症するといわれています」(伊藤先生、以下同)
日本では、古くから内臓系の病気は皮膚に現れる症状で診断していた。今では皮膚に現れる症状が多くの臓器と密接に関係していることが医学的にわかっている。
症状が現れるタイミングは、基本的にはがんの進行具合とリンクしている。しかし一部には、がんの“兆候”として先に皮膚に現れる先行性もあるという。
今回は伊藤先生に、もしかしたらがんのサインかもしれない皮膚の症状を10種類挙げてもらった。
「皮膚がんの一種である『乳房外パジェット病』は、最初は皮膚に症状が現れます。皮膚がすれるような場所が赤くなり、かゆみを伴うこともあるため、とくに夏場は『ムレによるデリケートゾーンの湿疹だろう』と放置してしまいがち。進行がゆっくりで、がん自体の自覚症状が出にくいため、皮膚症状で発覚しやすい病気です」
まぶたが腫れぼったく、なんだか筋肉疲労がある……といった夏バテのような症状にも要注意だ。
「さらに手指の関節がガサガサ荒れているなら、『皮膚筋炎』かもしれません。3割という高い確率でがんを合併しているので、見逃すと危険です。
実際に伊藤先生も、患者の皮膚筋炎からがんを見つけたことがあるという。
「手指が赤く炎症を起こして関節痛があったため、リウマチだと思って内科を訪れた70代の女性がいました。皮膚の炎症、筋肉痛、息切れがあったため、詳しい検査をしたところ『皮膚筋炎』でした。がんを疑って、すぐに大きな病院へ紹介状を書いたところ、初期のがんが見つかりました」
夏にかけて増える“水虫”に似たこんな症状も、がんのサイン。
「足の裏の皮が厚くなり、ボロボロむけて、『水虫だろう』と自己判断で市販薬を塗る。それでも改善せずに皮膚科に来たところ、『バゼックス症候群』だったというケースがあります。がんのデルマドロームとして知られ、高確率で咽喉頭がんや食道がんが見つかります」
これは足だけでなく手のひらから進行するパターンもあり、ひどいと耳まで赤く皮むけする。ステロイド外用薬が効かないといった場合に強く疑われるという。
■「年のせい」と思ったイボから胃がんを早期発見!
さらに、肌を露出する季節に気になるのがイボだ。加齢によって首や背中に増えるので「年のせい」と思って諦めがちだが、数週間から数カ月で急激に増えたようなら、がんの可能性が高い。
「ありふれた通常のイボならかゆみはなく、数年かけて少しずつ増えます。かゆみを伴う場合は、かなり疑わしいです。
さらに、虫刺されのような症状にも、がんが潜んでいる。
「夏風邪の症状に加えて、虫刺されのような、痛みのある赤い湿疹がポコポコと現れたら『スウィート病』かもしれません。軽いものなら虫刺されそっくりですが、重症化すると中心が黒く壊死が見られます。女性に発症することが多く、白血病のサインかもしれないため、なかなか治らない場合は、受診したほうがよいでしょう」
口周りの湿疹も見逃せない。
「赤い湿疹が口の周りや腕、足の付け根に繰り返し出るなら、『グルカゴノーマ』という腫瘍かもしれません。ホルモンを出す膵臓の細胞が異常に増えることで現れる症状です。食欲が落ちて夏バテぎみのような症状も見られたら、さらに疑いが高いです」
ほかの「皮膚に現れるがんサイン」は図表を参照してほしい。
ありふれた皮膚の症状を見逃さず、がんの早期発見につなげるためのコツはあるのだろうか。
「ポイントは3つあります。1つ目は、急激な変化を見逃さないことです。虫刺されのはずなのに全身に出てくる、変わった場所に赤みが広がったなど『いつもと違う』も異変のサインです。
さらに、皮膚科を受診するときの伝え方にも気を付けたい。
「皮膚科では肌のトラブル以外の症状を聞かれることはまれで、反対に、内科では皮膚症状は別の問題として話さないことも多い。こういった経緯で見逃されているケースは多いはずです。医師の質問に答えるだけでなく、“おかしいな”と感じていることをしっかり伝えることで、正しい診断につながり、がんを早期発見できる可能性が高まるのです」
内臓の不調は、体の内側だけに現れるわけでない。皮膚になかなか治らない症状があるなら、早めの診断を!