「孤独」というとどんなことをイメージするだろうか?

「寂しい」とか「話し相手がいない」「老後が不安」など、ネガティブなことが漠然と連想されるだろう。

ところが……。

■孤独は1日15本の喫煙に匹敵する健康リスクがある

「孤独」に関して、リスクの度合いを明示する研究の存在が明らかになった。

「これは、アメリカ・ブリガムヤング大学の心理学教授・ジュリアン・ホルト=ランスタッド博士らによる大規模メタ解析の結果によるものです。『孤独が体に与える影響は1日15本程度の喫煙による死亡リスクと同等だ』と報告されています。

同博士の調査によれば、ひとり暮らしや社会的つながりがないことなどによる孤独は、死亡するリスクが約26~32%高まるとされています」

こう話すのは、岡崎市社会福祉協議会(愛知県)・社会福祉士の簗瀬将さん。

喫煙による健康被害は「がん」や「心臓病」が知られるが、それと同等のリスクがあるとは驚きだ。

そもそも「孤独」とは、どのような状態をいうのだろう?

「孤独とは、『ひとり暮らし』あるいは誰かと同居していても、『外に出られない』とか『部屋に閉じこもっている』など、『日常的に誰とも会話していない』状態をいいます」(簗瀬さん)

厚生労働省によれば高齢者世帯は2024年に約1720万世帯あったが、このうちひとり暮らしは半数以上の約900万世帯、さらに女性のひとり暮らしは約577万世帯もある。

「孤独」がもたらす健康リスクは「ほかにも多々ある」という簗瀬さんに、ランスタッド博士の研究などをもとに解説してもらった。

■心疾患の発症確率が1.3倍

「ランスタッド博士によれば、『孤独は高血圧や高コレステロールとならぶ疾患リスク因子である』と考えられています。また、社会的孤立や孤独を感じている人は、冠動脈性心疾患や心筋梗塞のリスクが約1.3倍高くなるという研究報告もあります」

■アルコール依存と同じ

「ランスタッド博士は『孤独は慢性的なアルコール依存と同程度の病的リスクをもたらす』としています。孤独によって、肝硬変や食道がん、大腸がんのリスクも高まると考えられます」

■うつ病リスクが2~3倍

「孤独感は、脳内の報酬系やストレス応答系に影響し、うつ症状を発症しやすいことが神経科学的にも示されています。ある疫学調査では、孤独のうつ発症リスクは2~3倍ともされています」

■認知機能が衰えるスピードが20%の早くなる

「ランスタッド博士は、高齢者が孤独になることで、社会的な刺激を受ける機会が減り、脳の可塑性(外力による変化から元に戻らない性質)が高まり、記憶処理機能が低下しやすくなるとしています。孤独でない人に比べて認知機能の低下が20%早くなるという報告を同博士はしています」

■アルツハイマー型認知症のリスクが2.1倍

「米国医師会の雑誌『JAMA Neurology』(2022年)では、『孤独はアルツハイマー型認知症のリスクが2.1倍高まる』と記されています。

孤独を強く感じている人は同症の発症リスクが大幅に増加する、としているんです」

■自殺リスクが3~4倍

「孤独な人は、『自分は誰にも必要とされていない』という感覚を抱きやすく、うつや絶望感と密接に関連します。ある研究では孤独を感じている人の自殺率は3~4倍に増加すると報告されています」

■糖尿病の発症リスクが1.4倍

「孤独になると、交感神経活動が活発になり、ストレスホルモン分泌が多くなり、インスリン抵抗性を高めるとされます血糖値が下がらないため、糖尿病を発症するリスクが高まるとされて、ランスタッド博士は、孤独でない人に比べて1.4倍の発症リスクであるとしています」

■運動による血圧低下効果を相殺する負の効果

「ランスタッド博士は『孤独が運動などの健康的行動の効果を打ち消す要因となる』としています。孤独が慢性的なストレス反応を引き起こし、運動での血圧改善や血糖コントロールというポジティブな効果が相殺されるのではないかと考えられています」

孤独による健康リスクは、このように衝撃的なものが多い。これを受けて行政による取り組みも始まっている。

■孤独・孤立に対する危機感が増している

岡崎市社会福祉協議会はホームページで孤独・孤立コーナーを設け、対策に取り組んでいる。

高齢者の相談窓口を担当する同市ふくし相談課・寺西京子さんが言う。

「国は2024年、孤独・孤立で心身に悪影響を受けている人への支援を目的に、孤独・孤立対策推進法を施行しました。特に2020年以降のコロナ禍で孤独・孤立が問題になり、危機感が増したんです。

現場感覚として、身寄りのない方が増えて、孤立しやすい状況もうかがえます。独居の方の相談も、肌感覚で増えているんです」

本誌は前号で「全国『孤独死する県』ランキング」を掲載したが、そのうち「孤独死の割合が全国で最も低かった」大分県は、どんな対策を立ててきたのだろうか。同県福祉保健企画課の吉村一彦さんが話す。

「県は高齢者の日常的なつながりの機会として、体操、茶話会、趣味活動などで集まれる場所『通いの場』の普及に取り組んできました。

参加率は2023年度で14%あり、国が統計データを取り始めた2013年以降11年連続で全国1位です」

また、前述の本誌ランキングで「孤独死の割合が5番目に低い」愛媛県では、孤独・孤立対策相談窓口・支援情報サイト「ひとりじゃないよ! 愛媛県」を運営している。

「サイトからの情報発信に加え、孤独・孤立の問題を抱える県民に支援する団体の情報なども提供しています」(同県保健福祉課担当者)

社会との接点を持つことが孤独を防ぐ第一歩。将来に不安を感じたら、お住まいの市区町村の取り組みを調べてみてはいかがだろう。

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