戦後80年を迎える今年、実在の日本人女性をモデルにした舞台『WAR BRIDE ―アメリカと日本の架け橋 桂子・ハーン―』が上演される。戦争という時代の荒波を越えて、アメリカ人兵士との“真実の愛”を貫いた桂子さん。

その波乱の半生を演じる奈緒(30)は、この作品との出合いを「自分にとって大きなタイミングだった」と振り返る。

「出身地の福岡が原爆資料館のある長崎に近いこともあって、戦争というものを子どものころから身近なものとして捉えていました。年齢を重ねるにつれてもっと戦争のことを深く知らなければならないと思っていたので、愛と家族、その背景にある戦争と向き合えることに大きな縁を感じました」

実際にアメリカ・オハイオ州で暮らす94歳の桂子さんのもとを訪れ、彼女の言葉や暮らしから多くを感じ取ったという。

「桂子さんの生き方には、本当に深い愛がありました。家族への愛、日本への愛、そしてアメリカへの愛、とすべてが穏やかで強くて。周りの人たちもみんなその愛に包まれて暮らしているのを実感しました」

とりわけ印象に残ったのが、桂子さんが語った小さな思い出。日本で暮らしているときに、ある日、花を庭に植えていたところ、「なんで食べ物じゃないのに植えてるの?」と聞かれたというエピソードだ。

「とてもささいな話なんですけど、花を育てることがぜいたくだった時代背景を思うと、深く胸に刺さりました。戦後の困難な時代に、美しさや心の豊かさを大切にする桂子さんの姿が印象的で……。そして今、自分たちが選択肢の多い時代に過ごせていることのありがたさを実感しました」

本作では、20歳でアメリカ人と結婚した桂子さんの10代から90代までを演じるが、年齢よりもその人の本質を理解することを大切にしている。

「何歳になっても人の中にある“芯”は変わらない。だから私は、桂子さんという人間をしっかり見つめて、恐れずに演じたいと思っています」

舞台経験も7作目となり、映像との違いについて「悩んだり迷ったりする姿を観客にそのまま届けられるのが舞台の醍醐味」と語る奈緒。

逆にその経験が、映像の現場でも生かされているという。

そして、今回の旅は家族観や結婚観までも大きく変えるきっかけとなった。

「実は、結婚や家族を持つことに少し距離を置いていたんです。でも、アメリカで桂子さんと共に過ごした時間を通して、“愛を大切に育む”という生き方に勇気をもらいました。『私自身も、もとをたどれば愛から生まれた存在なんだ』って思えたことで、誰かと家庭を築く未来に希望と自信を授かった旅でした」

【INFORMATION】

舞台『WAR BRIDE ―アメリカと日本の架け橋 桂子・ハーン―』

8月5日から27日まで東京・よみうり大手町ホールにて上演。「WAR BRIDE(戦争花嫁)」とは、第二次世界大戦後、日本に駐留していた兵士と結婚し、海を渡った日本人女性のことを指し、本作は、米国に移住した桂子・ハーンの半生を描いたドキュメンタリー映画の舞台化。戦後激動の時代に真実の愛で困難に立ち向かった夫婦を、初共演の奈緒とウエンツ瑛士が演じる。

ヘアメーク:竹下あゆみ
スタイリング:岡本純子

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