7月20日、JR山手線の電車内で火災が発生し、乗客5人がケガをした。出火原因はスマホを充電していた30代女性のモバイルバッテリーだった。

その後、警視庁などによる調べで、発煙や発火のおそれがあることからリコール対象となっていた型番のバッテリーだったことが明らかになった(7月22日、NHK NEWS)。

「リチウムイオン電池搭載製品の火災事故は年々増加しており、夏場、特に8月に多い傾向です。リチウムイオン電池には可燃性の電解液が含まれているため、大きな事故につながる恐れがあるんです」

こう話すのは、製品評価技術基盤機構(NITE)製品安全広報課の安元隆博さんだ。リチウムイオン電池が使われている製品は、前出のモバイルバッテリーのほか、スマホ、充電式のコードレス掃除機、ノートパソコン、加熱式たばこ、さらには電動アシスト自転車など幅広い。

「直近5年間で、リチウムイオン電池搭載製品の事故は約1.7倍に増加しています」(安元さん)

事故件数が2番目に多いコードレス掃除機に関しては、以前大手メーカーの製品に非純正バッテリーを使用した際の発火リスクが指摘され、’21年10月には経済産業省が使用の中止を呼び掛けている。充電式の家電は純正バッテリーを使用することが大前提だ。

近年の夏の厳しい暑さも、事故の一因となっているようだ。

「気温の上昇とともに事故発生件数は増加し、8月にピークを迎えています。これは、リチウムイオン電池が高温環境にさらされることで、電池内部の温度が上昇し、異常発熱や発火のリスクが高まるためと考えられます」(安元さん)

今年3月にNITEが行った「モバイルバッテリーでのヒヤリハット事故の経験」についてのアンケートでは、「膨らんだ(変形した)」が最多だったという。

「膨らんだ状態のリチウムイオン電池内部には、可燃性ガスがたまっています。そのような状態に、落下など強い衝撃や外力が加わって内部部品が破損した場合や充電しすぎた場合、内部にたまった可燃性ガスが発火する恐れがあるんです」(安元さん)

NITEには、次のような火災事故の事例が寄せられている。

「まず、’22年6月に愛媛県で起きた事例です。

電動アシスト自転車を直射日光の当たる自動車の中に置いておいたところ、周辺を焼損する火災が発生。原因は特定されていませんが、バッテリー内部のリチウムイオン電池からの出火と推定されています。このバッテリーは、過去に2度、落下させていたと報告されています」

2つ目の事例は’20年7月、兵庫県で発生したもの。

「ネット通販で購入したハンディ扇風機が、異音とともに出火。周辺を焼損し、1人がやけどを負っています(全治1カ月未満の軽傷)」

3つ目は、’22年12月の神奈川県内の高校で起こった事故。

「学校で、フル充電したワイヤレスイヤホンをリュックに入れていたところ、火災が発生。リチウムイオン電池が異常発熱して出火したものと推定されています」

このように、私たちの生活に身近な製品が火を噴く事故を引き起こしているのだ。

前述した電動アシスト自転車の出火事故は、NITEに過去5年で202件通知されている。買い物や通勤に役立つ電動アシスト自転車と同様に、リチウムイオン電池を搭載しているのが、’23年から16歳以上が免許不要で運転可能となった電動キックボードだ。

「電動アシスト自転車より、電動キックボードのほうが劣化は進みやすいのではないかと思われます」

こう話すのは、リチウムイオン電池の開発と安全性の研究に携わってきた電力中央研究所・シニアアドバイザーの池谷知彦さんだ。

「電動アシスト自転車のバッテリーはあくまで人力の補助ですが、電動キックボードは電池だけの力で走るもの。そのためバッテリーへの負担が大きくなり、劣化が進みやすいと考えられるのです」

電動アシスト自転車や電動キックボードでも「炎天下での充電は避けるべき」と池谷さんは警鐘を鳴らす。

転倒などでリチウムイオン電池に衝撃が加わっていると、発火のリスクはさらに高まってしまうことに。酷暑にさらすことのないよう、十分に気をつけたい。

このほか、リチウムイオン電池搭載製品を購入する際、私たちはなにを注意すべきだろうか?

「まずは、『PSE』マークがついている製品、そして問い合わせ先が明記してある製品を選んでください」(池谷さん、以下同)

PSEマークは製品に表示され、日本の電気用品安全法の基準に適合し、検査などを実施した製品であることを示すマーク。店頭であれば、手に取ってPSEマークの有無をチェックできる。しかしネット通販では、マークの記載が不明なケースもある。

「その場合は、メーカーのホームページなどを検索して、同商品にPSEマークがあるかを確かめましょう。マークのないものは避けたほうが安心です」

また、ホームページ等に取扱説明書がある製品を選ぶべきだとも。

「取説は基本的にメーカーの所在地や連絡先が明記されていますから、問い合わせがすぐにできます。さらには、リコール対象になっていないかどうかも調べましょう」

購入した商品がリコールの対象であるかどうかは、NITEのホームページ「NITE SAFE-Lite」というリコール情報で検索できる。

「スマホやノートパソコンは、内部にバッテリーがあり、少し落とした程度の衝撃からは守られるように設計されています。しかしモバイルバッテリーやワイヤレスイヤホン、ハンディ扇風機などのバッテリーはクッションで守られていない場合があり、落としたときに直接衝撃を受ける可能性があります。

1回の充電での使用時間が短くなる、極端に熱くなる、充電に要する時間が長くなるなど異変を感じたら、すぐにメーカーに相談するか、買い替えを検討しましょう」

自分の身の回りの家電製品に発火リスクがあることを、けっして忘れることのないようにしたい。

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