《75歳を過ぎたらもう、(慰霊の旅に)いらっしゃらなくていいんじゃないですか。いま倒れられたら困りますよと言ったら、(上皇)陛下が「そうはいかない。

遺言だから」と……》

童話作家の高木敏子さんは、『報道特集』(TBS系、2017年12月23日放送)の取材に、冒頭のように明かしている。昭和天皇の遺志を受け継いだ慰霊の旅に、上皇さまと美智子さまは壮絶な覚悟を持って臨まれてきた。

元宮内庁職員で皇室解説者の山下晋司さんは、2005年に上皇ご夫妻が、日本兵や民間人が身を投げたサイパンの「バンザイクリフ」を訪問されたときのお姿が忘れられないという。

「戦争の悲惨さを象徴するこの場所で黙礼される両陛下の後ろ姿は、とても印象的でした。上皇陛下は、『忘れてはならない4つの日』として、沖縄慰霊の日、広島原爆の日、長崎原爆の日、終戦記念日を挙げられていますが、次第に過去の歴史が忘れられていくことを危惧されていました。

戦後80年の今年、天皇皇后両陛下が愛子内親王殿下とご一緒に沖縄を訪問されたのは、戦争の記憶を受け継いでいく思いを行動で示されたものと思っています」

■11回も訪問された沖縄への特別な思い

1975年、戦後の皇室で初めて、皇太子時代の上皇さまと美智子さまが沖縄県を訪問されたときのこと。過激派が火炎瓶を投げつける「ひめゆりの塔事件」が起きた。

そして事件の夜、上皇さまは次のような談話を発表する。

「払われた多くの尊い犠牲は、一時の行為や言葉によってあがなえるものではなく、人々が長い年月をかけて、これを記憶し、一人ひとり、深い内省の中にあって、この地に心を寄せ続けていくことをおいて考えられません」

皇室ジャーナリストの久能靖さんは、ご即位前からご退位までの間に、上皇ご夫妻が沖縄を11回も訪問されたことについてこう話す。

「天皇皇后として最後に訪問された2018年3月、提灯奉迎に参加した大勢の人々が口々に『ありがとうございます』と言っているのを聞き、それまでの上皇ご夫妻のお心寄せが沖縄の方々にしっかりと伝わっていたのだと思いました」

上皇ご夫妻が捧げられてきた戦没者への祈り、平和希求の歩みは、人々の胸に刻まれている。そして戦後80年の節目となる今年、天皇陛下と雅子さま、そして愛子さまが引き継がれているのだ。

編集部おすすめ