戦後80年の節目となる今年。天皇陛下と雅子さまはこれまでに、硫黄島、沖縄、広島、そしてモンゴルを訪問されてきた。
「天皇陛下と雅子さまが今年、戦争の記録や記憶を受け継ぐ場所を訪れられていることは、現代の日本人に忘れられようとしている悲劇の事実を、いま一度思い起こさせる意味があります。
先日のモンゴルご訪問で、両陛下は日本人抑留者の慰霊碑を訪れ、拝礼されています。この際、両陛下が二度拝礼された場面がありました。このご様子からは、戦争が終わっても祖国に帰れず、無念にも同国で亡くなった人々に対して、“責任をもって記憶を継承する”というお二方のお気持ちが表れているように思いました」
両陛下が6月に広島を訪問された際、広島平和記念資料館で被爆者らと懇談された。いまも「証言者」として被爆した経験を語り継ぐ才木幹夫さん(93)も、このときにお声がけされた一人だ。
「両陛下の全身からにじみ出る思いやりを、いまでもひしひしと感じています。いまも週に一度、資料館を訪れる子供たちに、人を思いやる優しさを大切にしてほしいと話しています。平和という言葉を独り歩きさせるのではなく、相手を思いやる心を持つことが、いま起こっている戦争に対しても、とても大切なことなのだと思います」
■両陛下が示される“未来への布石”
広島に先立つ沖縄ご訪問には、両陛下は愛子さまを伴われている。ここにも、両陛下の未来を見すえたお考えが表れていた。
「当事者や記憶を語り継ぐ人々と交流することで、いっそう理解が深まるからこそ、両陛下は次世代を担う愛子さまをお連れして沖縄を訪問されたのでしょう」(前出・つげさん)
《他の人を思いやるところから「平和」は始まるのではないだろうか》
これは学習院女子中等科の卒業文集に寄せられた、愛子さまの「世界の平和を願って」という作文の一節。両陛下は9月に、長崎への訪問を予定されている。
■“人任せにしない”愛子さまのご覚悟
天皇ご一家は沖縄で足を運ばれた平和祈念資料館で、戦争体験者や遺族らの記憶を受け継ぐ、若き語り部たちとも懇談されている。石垣島を中心に活動する綿貫円さん(36)には、ご一家にもっと伝えたいことがあったという。
「八重山諸島の戦争マラリアの話をもう少しお伝えしたかったのです。それは、住民がマラリア発生地域に強制疎開させられ、約1万7千人が感染、約3600人が亡くなった出来事として語り継がれています。生き残った方からは、“命の選別”が行われるほど悲惨な状況だったと聞いています。
そういった話は伝えていかないとと思いましたし、今回ご懇談の機会を賜わり、活動への背中を押していただいた気持ちでいます」
80年にわたり皇室三代が受け継いできた平和の大切さ。国民とともに光を当てていく歴史の側面は、まだ多く残されている。
「沖縄ご訪問を終えた後、両陛下と愛子さまはご家族でいろいろなお話をされているはずです。それは、愛子さまや悠仁さまといった皇室の若い世代への記憶の継承が、日ごろのご活動を通じて、一歩ずつ行われていることでもあるのです」(前出・つげさん)
愛子さまは前述の卒業文集に、
《「平和」は、人任せにするのではなく、一人ひとりの思いや責任ある行動で築きあげていくものだから》
ともつづられている。これからも愛子さまは若き同志たちと、平和な世界の実現に向けて歩まれる。