全国戦没者追悼式が行われている東京都千代田区の日本武道館の壇上に、天皇陛下と雅子さまが進まれる。そして両陛下は「全国戦没者之霊」と記された標柱の前に進まれ、正午に合わせた黙とうの後、陛下がおことばを述べられた。
戦後80年の節目を迎えた今年の追悼式のおことば。陛下は次のような一節に、お気持ちを託されていたのだ。
「戦中・戦後の苦難を今後とも語り継ぎ、私たち皆で心を合わせ、将来にわたって平和と人々の幸せを希求し続けていくことを心から願います」
戦後生まれの陛下と雅子さまは、戦争の悲惨さと平和の尊さを、戦争を知らない世代へ伝えていくことを、今年の「記憶継承の旅」で示されてきた。おことばの内容について、放送作家のつげのり子さんはこう語る。
「冒頭や結びの一文は例年のものを踏襲されていましたが、『戦中・戦後の苦難を今後とも語り継ぎ』という表現を、初めて盛り込まれていたのです。
いまや日本国民の9割近くが、戦争を知らない世代となりました。先の戦争がどれほど多くの幸せな家族、前途ある青少年の人生を奪ったのか……その事実が世代を超えて受け継がれるのか、天皇ご一家は危機感を抱かれているようにお見受けしています。
陛下のおことばからは、戦争を物語として風化させてはならないというお気持ちを感じました」
追悼式では首相のほか三権の長、遺族代表が追悼の辞を述べていった。皇室担当記者はこの際にも、“語り継ぐ”両陛下のご覚悟を感じたとし、こう続けた。
「それぞれのお話に、両陛下は体を向けうなずきながら聞き入られていました。そのご様子からは、今年の追悼式への強いご決意を感じずにはいられませんでした」
天皇陛下が追悼式で述べられるおことばは、国内外に大きな反響を広げる。こうした背景も十分に考慮されつつ、陛下と雅子さまは、思いを凝縮したおことばを吟味されていたという。
「コロナ禍の期間中に、苦しむ人々を案じる言及があった際には、保守派から“戦没者慰霊にふさわしくない”という声が上がったこともあっただけに、近年陛下と雅子さまはじっくりと時間をかけて、一言一句、おことばを考えられていたと伺っています。
それは7月の那須ご静養、今月初旬の須崎でのご静養中にも熟考されていたそうです。 日常のお務めを離れてもなお、真摯におことばの表現に向き合われる両陛下のおそばには、愛子さまもいらっしゃいました。まさにご家族で、戦後80年にふさわしい内容をお考えになっていたのです」
戦後90年、さらに100年のその先にも、悲劇を語り継ぎ、そして絶対に繰り返させないというご決意。天皇陛下と雅子さまは、愛子さまも交えながら推敲を重ね、平和への誓願をおことばに込められていたのだ――。