夏の帰省シーズンを迎え、久々に親と対面する人も多いだろう。しかし、その際に「親の様子が何となくおかしい」と感じた場合は、認知症のサインかもしれないーー。

「異変は実家に到着したときから感じるものです。いつも手入れが行き届いていた庭の草木が枯れている、台所に洗っていない食器が積み上がっている、など。『いつもとちがう』とピンときたら、注意が必要です」

そう話すのは、脳神経外科専門医で認知症サポート医でもある、京浜病院院長の熊谷賴佳さん。厚生労働省によれば、65歳以上の5人に1人が認知症になる時代。

「親が認知症になると、介護が必要になります。生命保険文化センターの2024年度の調査によると、介護にかかるお金はリフォームや介護ベッドの購入など、一時的にかかるお金の平均が約47万円、月々にかかるお金の平均が約9万円になっています。親の経済状況次第では子供が負担しないといけないことに」(医療ジャーナリスト)

認知症の手前の軽度認知障害(MCI)の場合、早期の治療を行えば、認知機能が改善したり、認知症への移行を遅らせたりすることができるとわかっている。仮に介護を5年遅らせることができれば、介護費用を540万円も減らすことができるのだ。

異変に気づくためのチェックポイントと、進行させないための方法を熊谷医師に教えてもらった。

「認知症や軽度認知障害が疑われる場合、典型的な症状として、記憶障害が生じます。たとえば、親戚一同が集まった席で、自分のきょうだいに向かい『どちらさま?』なんて言ってしまう。『明日は、お墓参りに行こうね』と約束していたのに、翌日になると忘れている。

『なぜ忘れたの?』と問い詰めると、『そんな約束していない!』と言って不機嫌になるなど、感情の起伏も激しくなります」

■「できていたことが、できなくなっている」に注意を

判断能力が鈍るため、テレビショッピングを見て、同じものを何度も注文してしまうことも。

「独居なのに、同じ布団セットが何組もある、同じ調理器具が台所にいくつも積み上がっている、など、明らかに使わないものがいくつもあれば要注意です」

加えて、「いつもできていたことが、できなくなっていないか」という点を見ることも重要だ。

「料理好きだった母親が、レトルト商品や出来合いの総菜ばかりを食べるようになっている」とか、「テレビやエアコンのリモコンを使いこなせない」または「トイレの流し忘れ」といった一見気づきにくいミスも、認知症のサインである可能性があるという。

「流し忘れを家族に指摘されると、『水の節約をしているから』などと言ってごまかす患者さんもいました。ほかの症状とも合わせて判断する必要があるでしょう」

さらに、次のように、性格や見た目に大きな変化が見られると、軽度認知障害を通り越して認知症の疑いが濃厚だという。

「優しかった母親が、急に『ばかやろう!』などと暴言を吐いてつかみかかってきたり、上品だった人が、卑猥な言葉を口にしたり。また、認知症になると、入浴や洗髪を嫌がる傾向があるので、久しぶりに会った親の髪がべったり汚れていたり、何日も同じ服で過ごしていたりするなら疑わしいです」

もし、チェックシートのうち1つでも当てはまる場合は、「近所の人たち、みんな受けているよ」と、さりげなく親を誘って、行政が実施している認知症検診などを受診させてみてほしい。

■眼鏡や補聴器が認知症予防に

「早い段階から『どんな人が認知症になりやすいのか』という傾向を把握して改善することが大切」と熊谷医師は強調する。

「見る、聞く、味わうといった、いわゆる“五感”が衰え始めると、認知症になりやすくなります。『年だから仕方ない』と放置するのではなく、次のような場合は、早急に対策を打ちましょう」

たとえば、親が白内障や緑内障などの目の病気を抱えていたり、度数の合わない眼鏡をかけていたり、難聴で会話が聞き取りにくい場合は早急に対応しよう。

「目の疾患が疑われるなら治療する。度が合わないなら眼鏡を作り直す。

聞こえにくさを訴えた段階で、デジタル補聴器や集音器などを使用させる。早い段階で対応することで、知覚を維持し、認知機能の衰えを予防できます」

加えて、食生活の乱れも認知機能の低下を招く元凶だ。

「高齢になると、活動量が下がって食も細くなり、筋力や免疫力の低下を招くといった悪循環に陥りがちです。食欲も湧かないので、『食事は残りものですませる』という方も多いのですが、それではタンパク質が不足して風邪を引きやすくなったり、筋力が低下して骨折しやすくなったりします」

ひとたび寝たきりになれば、坂道を転げ落ちるように、認知機能の低下が加速化する。

「そうならないために、卵や魚など、タンパク質を積極的に摂取してもらうこと。外出することで脳にさまざまな情報が入って活性化します。外に出る機会ができるように、趣味を持つことをうながすなどしてみてもいいでしょう」

親にいつまでも元気でいてもらうために、帰省の際には、チェックシートを持参しよう!

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