お盆を過ぎても、全国的に35度以上の残暑厳しい日が続いている。19日に発表した気象庁の秋(9~11月)の3カ月予想によると、全国的に平均気温が例年より高い見込みで、しばらくは暑さ対策が求められそうだ。
「暑いとつい、サボってしまいがちになる生活習慣で、認知症予防のためにも気をつけてほしいのは換気です――」
そう指摘するのは、米ニューヨーク市のマウントサイナイ医科大学の老年医学・緩和医療科の医師である山田悠史先生だ。
「日本ではすでに65歳以上の高齢者の4人に1人に何らかの認知機能障害があるといわれていますが、今後、その人口はさらに増加することが予想されています。だからこそ、はやくから認知症予防の対策は適切にしてほしいと訴えています」(山田先生、以下同)
多くの場合、認知症が発症するのは70代や80代だが、脳の老化はその30年以上も前から始まっているのだそう。つまり40代あたりですでに脳の中では認知症の原因となる異常なタンパク質が蓄積され始めているというのだ。
そのためにも、早めに生活習慣を切り替えたり、正しい知識を得て医療を受けることで、症状が出るのを遅らせることができたり、出にくくすることが可能だという。
山田先生が勤めるマウントサイナイ医科大学は老年医学では世界でもトップクラスの病院だとのこと。
山田先生に、認知症予防のために、知ってほしいNG生活習慣について、3つ挙げてもらった。
■部屋の換気をしない
「意外と知られていないことに、室内での空気汚染があります。
外気にPM2.5が混じっているとか、春になると花粉症になるとか、そういった外気の汚染はよく注意喚起されますが、夏の室内での空気の汚染には意外と無頓着な家庭が多いのではないでしょうか。
エアコンの効いた家の中にいて換気をしない、さらにその環境で料理をしたりすると、気づかないうちに室内の空気が相当汚染されてしまうのです」
春先によく注意喚起されるPM2.5や花粉情報など、汚染された空気が私たちの健康に悪影響を与えるということはなんとなく理解できる。しかし、家庭内での換気が脳の機能と関係していることを知っていたり、気にかけている人は少ないのではないだろうか。
「たとえば、換気扇を使わずにガスコンロを使って調理をすると、家の中でPM2.5や二酸化窒素などの有毒ガスによる汚染が、安全とされるレベルの100倍以上の濃度まで上がりうることがわかっています」
にもかかわらず、換気をせずに自宅にこもったままでいると、有毒なガスにさらされ続けていることになるということだ。
「ある研究では、PM2.5の濃度が大気1立方メートル中に平均1マイクログラム増加するごとに、認知症リスクが3%増加すると報告されています。PM2.5のような超微小粒子は肺や鼻を通じて脳に入り込むことができ、有毒ガスが脳細胞に直接ダメージを与えたり、血管の中で炎症を起こして動脈硬化を進めることで認知症の原因となりうるのです」
主婦は自宅にいる時間も長めで、台所に立って調理する時間も多い。最近の住宅は気密性が高いこともあり、締め切った家の中で換気扇を使っていたとしても、換気は十分とはいえないと山田先生は指摘する。
「有害物質による汚染は一般的に外気より室内のほうがひどく、外気の2~5倍に上ると言われています。こまめに窓を開けてしっかりと空気を入れ換えるようにしましょう」
掃除機をかけるときも換気をしてほしいと山田先生は加える。意識的に換気を習慣づけないと、知らないうちに認知症リスクを高める住環境にいる、ということになりかねない。
■糖質をとりすぎる食生活
「夏場は食欲が減退しがちで、糖質過多になることが多くあります。糖質をとりすぎる食習慣にも注意が必要です」
暑い時に行いがちな食習慣に、そうめんや冷やし中華などの冷たい麺類やパン類といった糖質の多い食事に偏ったり、ファストフードやスナック菓子などの超加工食品でお腹を膨らませようとすることがある。
「糖質の多い食事は肥満につながります。肥満が認知機能を低下させるという研究結果は多くありますが、逆に肥満の人が2キロ体重を落とすと、半年後には認知機能の改善がみられることも報告されています」
また、スポーツドリンクやフルーツジュースを飲むといった習慣も要注意。
スポーツドリンクや果汁ドリンクであれば健康的かといえば、実は意外と多くの糖質が含まれている。
「ある研究では、砂糖入りの飲料をよく飲む女性は、そうでない女性に比べて2型糖尿病に罹患するリスクが83%高くなることが報告されています。
糖尿病が認知症の要因となる理由には、糖尿病は血管を傷つけるリスクが高まることから、脳血管が損傷しやすくなることや、体内で炎症が起こると脳血管を傷つけやすくなることなどが挙げられる。
■缶ビールを毎日2本以上飲む
こういつまでも暑いと冷えたビールが美味しく感じる。しかし、350mlの缶ビールを1日に2本以上飲むのも認知症リスクを上げることにつながると山田先生。
「飲酒が認知症に関係する研究も数多く発表されています。それらをまとめてみると、1日に缶ビールを2本以上飲む人は、少ない人に比べて認知症リスクが22%高くなることがわかっています」
さらに時々深酒をする人は、たとえ平均の飲酒量は少ないとしても、認知症リスクが約2倍に高まるのだという。
かといって、いきなり禁酒は難しいという場合、1日1本に抑えるようにすることで、リスクを下げることができるという。
知らず知らずのうちに認知症になる生活習慣を送っているのであれば、今からでも遅くない。早速変えていこう。