「『トップスチュワーデス物語』を撮影していた当時、『邦ちゃんのやまだかつてないテレビ』(フジテレビ系)のほかレギュラー番組が何本もあったので、いつ台本を覚えていたんだろうかと不思議になります」
こう振り返るのは、山田邦子さんだ。とくに大映テレビの特徴的なセリフに苦しめられた。
「アドリブなんていっさいなく、一言一句、台本どおりにしゃべらなくてはいけないんです。しかもセリフが長い。メーク室で、3人娘たちとお化粧をしながら必死に練習していました」
3人娘とは、田中美奈子、有森也実、とよた真帆が演じた、おっちょこちょいの後輩役。
「みんな、今でこそベテラン女優ですが、当時はど新人。ドラマの最後で、先輩役の私が3人に訓示をするのがお決まりだったのですが、訓示の最後に涙を流すのに、途中から泣きだしたりしてNGに。次の生放送の現場への移動時間がギリギリに迫るなか、3人娘が下手くそすぎて、本当に腹が立ちましたね(笑)」
同ドラマには若き日の唐沢寿明も出演。
「3人娘の憧れの整備士という役ですが、元々は起用されるはずのない、カメラテスト用に呼ばれていた新人俳優でした」
撮影期間中には思わぬアクシンデントにも見舞われた。
「深夜、バイクにはねられたんです。転んで左の目の下から顎にかけての?全体を地面でこすって、“顔、いったな”って……」
救急搬送され、小さな破片を取り除きいちばん早く皮膚が再生できる治療をしたが、回復までに1カ月ほどかかった。
「バラエティ番組では絆創膏を貼っていたのですが、ドラマではそうもいかないので、しばらくは顔の右側からしか撮影できず、不自然な仕上がりになっています」
忘れられないのは、番宣のために取材陣も招待してのオーストラリアロケだ。
「大きな自然公園でカンガルーと撮影をしたかったのに、遠くのほうで寝そべっていて。みんなが困っていると、私と目が合った1匹が、ピョーン、ピョーンと向かってきてくれたんです」
取材陣もカメラを構えだしたのだが――。
「私の正面に来て、私と目が合った瞬間、ゲーッて気の毒なくらい吐いて。吐いてスッキリしたら、踵を返してまた遠くの群れに帰って行きました。残念ながら撮影はできませんでしたが、取材陣から大爆笑が起きたので、まあ、いいかな(笑)」
『トップスチュワーデス物語』(TBS系、1990年)
名作『スチュワーデス物語』(TBS系)のスタッフが再集結したものの、内容はなぜかコメディ。日本航空に勤務する落ちこぼれの「3バカ烏」、鈴木華江(田中美奈子)、林美栗(有森也実)、高橋乃梨子(とよた真帆)に手を焼くアシスタントパーサー・春野宴を山田邦子が演じた。
【PROFILE】
やまだ・くにこ
1960年生まれ、東京都出身。数々の素人参加番組で活躍し、1981年にドラマデビュー。全盛期にはゴールデン帯の冠番組をはじめ、週14本ものレギュラー番組を抱える人気者に。現在もものまね漫談などで活躍している。